ひと昔前、中華料理ではなくて飲みに行くのが目的で中華街によく通ってた頃があった。
おかげで中華街で知っている中華料理の店はというと、中華街で働く人向けの遅くまでやっている中華料理屋くらい。
飲んだあとにそこでラーメンを食べに行くんだけど、その店でラーメンをすすってる時はというと、完全アウェーというか、その店そのものが中国だった。
中華街近辺のバーは異国籍風のバーがほとんどで店ごとに各国それぞれの空気が流れていて大好きだった。
日本語が全く通じなくて通貨が米ドルのバーに迷い込んだり、ミートローフが絶品のイギリスのバーや、これでもかとフライドポテトが乗ってるハンバーガーを出すアメリカンバーもあったけど、結局僕が落ち着いた先はギリシャのアテネだった。
その名の通りギリシャの方がオーナーの店で、店員は全員がとても綺麗な日本女性ばかりだった。
若冠25~6の僕には30代とおぼしきお姉様方がとても素敵に見え、なんとも言えぬ色気と手を伸ばしてもとても届かない魅力に惹かれて通いだしたに違いない。
素敵なお姉さんに緊張しながら必死に話しかけても小僧の如く軽くあしらわれた、まだ青かったあの頃の僕にまた戻れるなら戻りたい。。。
そこに行くと必ずムサカを食べていた。
最近は徐々にメジャーになりつつあるギリシャの代表的なその料理は当時はここでしか食べられなくて必ず注文していた。
その素敵な女性の立ち居振舞いと、ムサカが運ばれる時の息を飲むような親指の美しさをきっかけもなく急に思い出したんだ。
今も昔もやっぱ女性は30代が素敵に見える。
その味を再現してみようと過去に何度か挑戦するも、気がつけばデザートみたいな味になってたこともしばしば。
そこで一度も満足していないムサカを数年ぶりに作ってみようというわけ。
まず100均で買ってきたスポンジケーキの器に茹でたジャガイモを敷き詰め、先日作り置きしておいたミートソースにギリシャっぽくシナモンにオールスパイスで風味付けをしたものを乗せ、オリーブオイルでグリルしたナスを並べ、最上部は本来水切りヨーグルトかベシャメルソースだけど今回はマッシュポテトに粉チーズとオリーブオイルを混ぜたものにした4層構造にして、ちょうどいい焦げ目がつくまでオーブンの前に椅子を持ち出してワインをチビチビとやる。
出来上がりで焦って食べてはいけない。
一回冷やして形状を保ったまま切り分けて、暖め直して出来上がり。
なのでこの作業、実は土曜の昼からやっているのだ。

ムサカ!
なんだか…僕の料理の味がする。
もうちょい独特の風味があってスパイシーさが欲しいけど、まあまあ美味しい。
でも満点はあげられない。

ホタテのエスカルゴ風!
これは…、お店の味だわ!!
カタツムリが街のスーパーで手に入るわけないのでつぶ貝を探してウロウロしてたら、路面店の魚屋で生の良物を見つけるも一盛がものすごい量。
この量は捌けまい、代用の代用を探し求めてスーパー2件をハシゴして、直径2cmくらいの小さなホタテを見つけた!
ちょうどいい量だし、生食用って書いてあるから生臭くあるまい。
パセリを買ってエスカルゴバターを作って、たこ焼器みたいな皿が無いのでグラタン皿で代用。
これは今すぐ店に出せる、自信ある。

ブルスケッタ!
大したことないけど実は得意な料理の一つ。
ホタテよりも高いフルーツトマトにバジルと少しのニンニクを適当に刻んで、オリーブオイルに上等の塩(これ大事)だけ。
残念なのはこないだ買ったオリーブオイルがややハズシ気味なこと。
風味がイマイチか。
明日は船に乗ってヴェネチアあたりに行きたいところだけど、オリーブオイルとニンニクが連日続くのは今の僕には無理かもしれない。
今夜のムサカはあの店の味にはほど遠いデキだったけど、あの時相手にされなかったほろ苦い想い出が払拭できたのか、今の僕なら相手にしてもらえるのか。
そんなことが解ったら、人は恋をして胸が高まることなどあるまい。
僕はまだ青いままなんだ。