昼間のホテルのプールネタに味をしめた“ホテル納涼シリーズ”第二弾はディナーショーでの涼しげな出来事のお話。
ディナーショーと言えばホテルにしてみればウェディングと肩を並べるドル箱収入源。
しかも大物歌手になると営業することなくチケットは飛ぶように売れるし、アルバイト君にも興味のある歌手や俳優のディナーショーは是非ともシフトに入りたいもの。
ところが大物演歌歌手となるとバイト仲間には俄然人気が落ちる。
一般的なディナーショーは、先ずフルコースのディナーを提供した後、バーカウンターのみを残していよいよショータイムの流れであります。
客層はというと、男性歌手なら青春期に人気を博した奥様方、2時間ドラマでよく見る女優なら中年の殿方からご夫婦まで、と色々なお客様がおいでになります。
そして大物演歌歌手。
宴会前の打合せでは黒服の数がいやに多く、なんとも言えぬ緊張感が漂う。
そして宴会を仕切る黒服から最後に注意が…
『いいかっ!今日はとにかく断るな!粗相は絶対にするな!!』
であります。
初の演歌歌手のディナーショーが紅白のトリを何度となく努めあげられたお方なら…と思っておりましたが、開場の瞬間に色んな理由が解りました。
(お察し下さい…)
ステージに近い席はお偉い方々(幹部)のお客様で、何かあってはいけないので社員の黒服がサーブしますが、見てるとそんなお客様方は立ち居振舞いといい、お言葉使いといい、実に紳士であります。
ところが、バイト君が担当する後ろの方の席の方々はと言いますと、まだ血の気…失礼しました、お元気が良さそうなご様子のお客様が多く、お召し物も歩かれる姿からしても“いかにも的”な雰囲気の方々が着席なされます。
ハッキリ言ってこっちの方がビビります。
そして食事が始まり、箸をご利用なされたいとか、フリードリンクのリストにないトマトジュースをご希望されたりなどは臨機応変に対応し、なんの粗相もなくいよいよデザートとコーヒーをお出しすればショータイム。
「(あぁ~、ここまで何事もなく来たわ~、助かった~。おれ、がんばった)」
と、少し緊張も緩みつつデザートのメロンをお出しします…。
すると…、ん?、そら耳?
いや違う、現実。
『よぉ!兄ちゃん!』
『俺、このメロンいらね~からもう一回肉出せっ!』
ぎょえ~~~っ!
「(今日は断るなって言われたから、ここはひとまず黒服に…)」
『し…、少々お待ちくださいっ』
相談の結果出すことに…
大物演歌歌手が入場寸前だというのに自分のテーブルだけ食事が終わってないという、あってはならない事態に陥ったのでありました。
みんなから大物演歌歌手が人気がない理由が解ったわ~、とほほ…
でも以前他所ではスープを洋服に溢して大変な事になったことがあったらしい。
「(それに比べりゃ、今日の僕は楽なもんよ。。。)」
広~い宴会キッチンの前でポツンと一人、ステーキを焼く音が涼しく感じられた夏の想い出なのでありました。。。