2対3の1点差で迎えた最終回。
抜けるような青空からはひばりの鳴き声が聞こえてくる。
相手チームは本来のエースなのか草野球なのに抑えなのか知らないけど、若くてやたらとフォームと顔がカッコよくて、めっさ球の速いピッチャーがマウンドへ。
ちょっと肘の下がったスリークウォーターからのストレートが唸りをあげる。
投球練習で一球毎に相手ベンチから「うぉ~っ!」と歓声が上がり、よ~く数えたら8人(内4人もけしからん丈のミニスカート)も来てる応援女子からも黄色い声援。
『ゲッ…、ムカつく!
こっちは女子なんているわけね~し、しかも草野球の応援にミニスカートかよっ!
羨ましいじゃね~か!
そもそもついこないだまで高校球児みたいなピッチャー、反則じゃね~の?
誰か大会規程調べてこいよ(笑)』
(既に負け惜しみモード全開の一塁ベンチ(笑))
先頭打者が三振、二人目もクソボールにつられて三球三振に軽く仕留められ、万事休すな場面で打席が回ってきた。
投球練習でカーブかスライダーみたいなの投げてたけど、これまで全部真っ直ぐだけ…。
もったいぶる様にちょっとだけゆっくりボックスに向かって歩きながら…
「ナメられてるか知らないけど、真っ直ぐしか来ないっしょ…」
球がやたらと速いので、ボックスの一番後ろはみ出るくらいに立って、バットは指一本短く持って構える。
「初球はタイミング取るだけで見送ろっと。
初球セカンドゴロで試合終了はやだし…」
初球。
ご自慢のストレートが外いっぱいにズドーン。
ボール。
「うぉ~っ!思ったより全然速いし、のびのびじゃんか!?
にしてもボールで助かった…」
足元見ながら…
「2球目は直球に合わせてフルスイングするべ…」
2球目。
真っ直ぐを空振り。。。
「高目のボールだったか…。しかもだいぶ遅れてる…。
次も直球狙いで思いっきりいくべ。」
3球目。
真っ直ぐが真ん中に。
「キタッ!!」
空振り。。。
左脇があいて酷いスイング。
「しまった~、追いこまれてまった…。大振りだったな~。
でもタイミングは悪くない、よく見てスイングしないと…」
4球目。
初のスライダーが外いっぱいに。
ボ…、ボール。
全盛の落合みたいに自信を持って見送った…ように振る舞う…。
(ホントは全く手が出なかった)
「ちょっ!そのキレ方反則だべよ!
伊藤智かよっ!
にしてもボールで助かった。
次ストライクゾーンにこの球来たら間違いなくやられる…」
2-2からの5球目。
外いっぱいの真っ直ぐをなんとかカット。
完全に振り遅れて酷いスイング。しかも前に飛びそうな雰囲気が全くない。
「当たったよ(笑)あのスライダーで完全に崩された。
もうあのスライダーは捨てよう。
どうせ打てね~よ、あれ…。
コンパクトに振ろう、
コンパクトに。
コンパクト、コンパクト…」
呪文の様に呟き、更にバットを短く持つ。
2-2からの6球目。
真っ直ぐが真ん中に…
「いっとけ~っ!」
カッキーンッ!
改心のライナー性の当たりがレフト左に…
少年野球のころ幾度となく叱られて、「直しなさい!」と言われた中畑みたいなバット投げをして一塁に向かって走り出しながら打球を見る…
レフトが左後方に必死に追ってる…
2歩か3歩走ってもう一回見る…
『抜けた~!』
「うっひょ~っ!きましたわ~!
三つ行けるか!?…」
スタンディングダブルで思わず一塁ベンチに右手を上げてガッツポーズ。
「見たか!
野郎ども!ミニスカ女子ども!
ベンチも空元気だけど一応盛り上がっとるわい(笑)
がっはっは!」
次の打席はピッチャーで4番、チームの“ミスター少年野球”。
「こりゃ、ひょっとしたらひょっとするかもだけど、いかんせん2塁走者の足が遅すぎる。。。」
「とりあえずリードはちゃんと取るべ…」
と、初球のスライダーがショートバウンドしてキャッチャーが右に反らす。
まさに思わず、考える暇なく三塁ベースめがけて突進していた。
際どいタイミング。
足から滑ってベースの感触を足で感じると同時にキャッチャーからのボールが目の前に!
そこにサードのグラブが出てきて顔面タッチ。
『セーフッ!』
と聞いた審判の声と共に、ラグビーでタックルしたはいいけど、相手の膝が顔面に入った時のような激しい痛み。
「ちょ~痛い(>_<)、鼻血出てない?鼻血?(T-T)」
『(相手のサードの顔見て)痛て~けどナイスサード!』
と、相手のサード…
無視。。。
「無視かよ…。
でもコイツが捕ってなかったら顔面直撃だったわ…」
そこから相手のピッチャー制球乱して四球。
「こりゃ、流れがきましたわ。でも4番のここで決めたかった…」
ランナー1塁3塁。
1塁ランナーのミスター少年野球が目で合図。
「俺行くよっ!キャッチャーがセカンド送球したら突っ込んで!」って言ってるように見えた。
「マ…、マジかよ…!?
そのプレー、野村ヤクルトがしょっちゅうやるのは見たことあるけど、俺飯田じゃね~し、やったことね~し、出るタイミングすらわかんね~し…」
覚悟を決めるも2塁打に3盗と、一球一球真面目なリードで既に息は上がりまくり。
行けるのか?
その初球に1塁ランナーが盗塁するも、高校野球上がりでキャプテンみたいなチームのキャッチャーは
『バッターオンリーね~!』
なんて言いながらゆっくりピッチャーに返球。
「やるな~、落ち着いてるわ…」
次の打者は草野球特有の折角来たからと、途中思い出代打でそのままライトの守備に入った非野球経験者。。。(ただし好きな選手は池山)
彼の打球はサード前へ力なく小フライ。
ホームベースを踏むと同時に審判のアウトのコールを聞いた。
試合前から相手は見るからに野球経験者を寄せ集めたチームで、勝てるわけないと思った相手に、好守の連続とあと一打まで追い詰めたなんとも言えぬ充実感。
なに?この気持ち。
小学校2年生から野球やってきての一番のナイスゲームは、野球を始めてから20年以上が経った、春の区大会の2回戦の負け試合…、
の回想録だったのでした。。。
それにしてもサードに行ってからの2球目の牽制は絶対にボークだった。
やっぱし野球、やりたい。。。