かつてフランスを走っていた国際急行列車 Train Bleu。
先日購入した「La Edad de Oro del Viaje en Tren」の中から抜粋してみましょう。
パリ、リヨン駅のレストラン「トラン・ブル」 さながら宮殿のよう・・
乗客は出発前にこの広間でディナーを楽しんだそうで、今でも歴史的建造物として保存されています。
出発のホーム
個室寝台の昼と夜
サロンカー
読書の秋となりました。ちょっと文学的な趣向で、小説の中に描写されたブルートレイン。
この列車は、北方ヨーロッパのメランコリックな冬を厭うハイソの人々を、南国の光と花が満ち溢れる地中海へといざなっていたのですね。憧れのリゾート地、コートダジュールやリビエラのステイタスが確立したのもこの時代でした。
ルシアン・ソルヴァイ 1882年
私たちはニースへ向っている。さらば、北国の霧と寒さよ。春が女王のように君臨している国へ行こう。オレンジ、オリーブ、無花果、椰子の実がたわわに実る、花咲く土地へ。棕櫚の葉がさざめき、アロエが街道の縁を区切っている。長い旅路の景色の中には、バラの垣根があり、木犀草、スミレが芳香を放っている。鉄道はしばらく海辺をめぐり、青い海の上を旅しているような印象を与える。地中海沿岸の浜辺、岬、湾が展開して、気まぐれな蛇のように曲がりくねった軌跡を描きながら、常に新しい風景を見せてくれる。
アガサ・クリスティ 1928年
彼は静かな歩調で、セント・ジェームズ通りからピカデリー・サーカスの方へと向っていき、クック・アンド・ソンのオフィスの前を通ると、その中に入り、窓口に近づいていった。
「来週、ニースに行きたいのだが」 「いつ、ご出発をなされますか?サー」 「14日に発ちたい。一番良い列車はどれだろうか?」 「最高の列車は、ブルートレインと呼ばれておりまして、これに乗れば、カレーでの税関の面倒な手続きも避けられます」 デレクは最初の言葉を強調した。「14日ですね」 係員は呟くように答えた。「残念ながら、この日のブルートレインは満席でございます」 「もしあれば、簡易寝台も見てくれ給え」 係員は一旦席を離れて、数分後に戻ってきた。「よろしゅうございます。簡易寝台が3席残っておりました。その1席を予約いたしましょう。お名前は?」
翌日の朝、キャサリンは光の中で目覚めた。そして、昼食をとろうとして食堂車に向かった。コンパートメントに戻ってきた時には、憂い顔をした乗務員の手で、すべてが整頓されていた。その男が言った。「列車は少々遅れております。ニ―スに近づいたらお伝えしましょう」 キャサリンはお礼を述べると、、窓際に座ってパノラマ風景を眺めた。紺碧の海と輝くような黄色いミモザは、ほとんど14年このかたイギリスを離れたことがないアルビオンの女にとっては、新鮮な喜びであった。
コレット 1932年
30代になるまで、まだ私はニースもモンテカルロも知らなかった。それでもふと、正午頃になって、あどけない幼女の頃の潜在的な記憶が甦ってきた。夜が明けて、マルセイユを過ぎると、鮮やかな青さが水平線を染めた。軽妙ながら堅固な感触の青さが、ほとんど真っ白な空と隙間なく接している。ヨットの帆柱が立ち輝いては消えていき、黄色い壁が紫色のマントのような花で覆われている。列車は速度を緩めながら進んでいく。誰かが、この花の名はブーゲンビリアだと教えてくれた。
(翻訳 by ルイス)
この本は、アル・アンダルースのサロンカーに備え付けなので、古き良き時代の豪華列車に思いを馳せながら旅するのも一興。初めはちょっと高い本だと思いましたが、なるほど相応の価値はあります。



