その頃、城下町の西門と南門では大騒ぎ。
ジャイアント・アンティター(巨大アリクイ)の
ゾンビが出現していた。
しかし暴れ回っているということは無い。
どちらの門にも常識外れの強者が構えていた為、
魔物ですら対峙する。
南門ではメリルを物陰に隠し、
「魔法は使わないように。」
と念を押してミシュランが魔物と対峙していた。
メリルが魔法を使えば、他のハイエルフたちに
お忍びで来日している事がバレてしまう。
メリルは協力したかったが、
ミシュランからそう言われたので
大人しく見ていることにした。
そして一瞬の出来事に驚愕する。
ミシュランが一瞬で魔物の背後に回り、
尾を抱きかかえる様に掴んだ。
あの巨体でなんて素早さ……!
フンッ、
とミシュランが気合いの声を上げると、
巨体な魔物を振り回し、
地面に叩きつけ仰向けに倒す。
ドオォン、
と地が鳴り響く中、メリルは半ば放心状態。
「……うそでしょ!?」
ゾンビになって肉が削げ落ちているけど、
200キロはあるわよ!!??
ミシュランは腐った肉塊の中にある魔核を
感知すると、迷わず肉を引きはがして
魔核をもぎ取った。
すると、腐った肉がボタボタと崩れていき、
魔物は動かなくなった。
「この巨大ゾンビ……」
ミシュランは何を感じ取ったのか。
メリルに預けていた自分の革袋から
タオルを取り出し、魔核を丁寧に拭く。
そしてタオルにくるんだまま革袋に入れた。
「あ、メリルさん、大丈夫ですか?」
放心状態だったが声を掛けられハッとする。
「ミ、ミ、ミシュ、ミシュランさん、
か、身体はなんともないんですか?」
「え? 全然大丈夫ですよ?
こう見えて魔法使いですからね!」
……。
どの辺が魔法使いらしい戦い方だったの?
「あの巨体、少なくても200キロあったでしょ!
あんなの持ち上げて腕に痛みとか無いんですか!?」
するとミシュランは
ニコリと健康的な白い歯を見せて笑う。
「あのくらいなら大丈夫です!
ベンチプレスで200キロ持ち上げてますから!」
「……あ…そう…です…か。」
ベンチプレスで200キロって、
痩躯なハイエルフには無縁に感じるわ。
ハイエルフが無縁に感じる戦いぶりはこちらもか。
西門に出現した巨大ゾンビは傭兵グラッグと対峙。
太くて頑丈な長いロープを近くの武具店から
引っ張り出し、大通りを塞ぐように一本張った。
他の道は細いから巨大ゾンビには通れない。
大通りに入れば冒険者向けの商店や食堂が
被害に遭うのが目に見えている。
だからどうしてもこの場で倒す必要があった。
グラッグは迷うことなく懐に飛び込む。
密着した近接状態では、
巨大な魔物は思うように攻撃できない。
普通なら体当たりはできるが、
ゾンビとなると体当たりに必要な筋肉が無かった。
グラッグはそれを見越して懐深くもぐりこみ、
巨大ゾンビの体内に火炎瓶を数本仕込む。
そして離れ、周囲に叫んだ。
「皆、伏せろ!」
周囲にいた者たちが急いで物陰に隠れて身をかがめる。
次の瞬間、火炎瓶が爆発して骨と腐った肉塊が
崩れ落ちていった。
グラッグは動かなくなったのを確認するや、
コアを拾い上げる。
「こいつ……」
グラッグもまた、ミシュランと同じ様な思いを
感じ取っていた。
まるで、倒されることを願っていたような……。
あまりにも抵抗感が無さすぎる。
おそらくは操られてこの場に放り出されたか。
俺が出張るまでもなかったようだ。
そこにハイエルフのスージーと、護衛していた
ヴェスターが近寄る。
「さすがは大陸一の傭兵。
瞬殺でしたね。」
「これはそういう戦闘じゃない。
ヴェスターも気付いていただろう?
このゾンビの本質を。」
「糸を感じましたか。」
「俺は魔法に疎いから感としか言えんがな。
ヴェスターも気をつけろ。
何か、今まで会ったことの無いような
異質さを感じる。」
「ええ、気に留めておきましょう。
グラッグはこの後どうするのです?」
「宿場町ラザンに戻る。
ここでの仕事は済んだようだからな。
それに、向こうでも少し気になることがある。」
「気になること?」
「ダリエンソ山の迷宮で有毒ガスが発生していてな。
ラルド将軍とこの第4軍が調査しているようだが
難航しているらしい。
トラブル続きな話だが、
あまりに重なっているんで偶然じゃないかもしれん。」
「なるほど。
では戻ったら第4軍の調査応援ですか。」
「いや、そこまでお呼びがかかっていないから
彼らに任せて大丈夫だろう。
今の俺は武具屋。
一番の心配は迷宮に挑んでいる冒険者たちの事だ。
中には慎重なくせして奥まで突っ込む奴もいるからな。」
ここまで話すとグラッグは西門へ足を向けた。
「じゃあな、機会があればまた会おう。」
「ええ、ぜひ。」
グラッグを見送った後、
ヴェスターは珍しく考え込んでいた。
その様子を見て黙り込んでいたスージーが声を掛ける。
「ヴェスター殿?」
「あ、あぁすみません。少し考え込んでしまいました。」
城下町の西門でわざと偽物の杖を持った者を通す、
というのは成功したんでしょうかね。
それらしい人影も、追跡しているケルベロスも
見かけなかったのですが……
国境超えを最短距離で狙うなら西門の一択だったはず。
それに、
騎士団の常駐する国境を
どうやって突破するつもりなのでしょう?
伝書はあちらにまで届いていない。
であれば、ラルド将軍が黙って見ている事もない。
……まだもう一つくらい荒れそうですねえ。
その西部国境には、
邪教集団ラハブの幹部たちが向かっていた。
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