盛岡食いしん爺日記
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心惹かれる街、弘前。
残念ながら閉店した中三デパート近くの駐車場に停め、
土手町の通りから路地に入る。
この辺りは坂元町で昭和34年(1959年)創業の「名曲&喫茶ひまわり」がある。
弘前に来ると寄りたくなり、毎年のように訪れる。
For the Good Times · Perry Como
初めて来たのは、もう十数年前のことだ。
「藩士の珈琲」を頼んだ。
急須から立ち上がる珈琲の香り。
時々、木のスプーンで麻袋を押すと、だんだん褐色になってくる。
復活した江戸時代の「藩士の珈琲」。
幕府の命により、弘前藩士が北方警備のため、蝦夷地に赴いた。
厳冬下で病の予防薬として珈琲を飲んでいた。
それを再現したものだ。
当時の幕府の仕様書には、
黒くなるまでよく煎り、
麻袋に入れ、 熱き湯にて番茶の如き色にふり出し、
土びんに入れ置き、砂糖を入れると記されていた。
藩士の珈琲は湯のみで飲む。
見た目よりあっさり。
濃い番茶、紅茶のようでもあり、飲みやすい。
ブルベリーのチーズケーキ。
ジャム風のブルベリーがたっぷりチーズケーキに。
口の中で混ざり、酸味と甘味のバランスがよく美味しい。
ゆっくりしてレジに向かうとオーナーが、
「2階、見る?」
「はい」
去年も見せてもらったが、今年も階段を上がった。
何度でも見たい。
前はたいてい2階の席だった。
初々しい笑顔で話すカップル。
ネルドリップの珈琲を飲みながら本を読む老紳士。
奥には広いテーブルがあり、
おそらく地元の御婦人方だろう、賑やかだった。
この街に暮らす人の日常の欠片を覗いている気分だった。
十年以上前に働いていた女の子のことを覚えている。
学生のアルバイトの様だった。
階段を小気味よいリズムで上り下り。
ポニーテールが左右に揺れた。
足元は白いバレーシューズで薄い水色のワンピース。
はっきりとした記憶だ。
あの子は、今どうしているのだろう。
昨年、
店構えにカメラを向けていると、老人が言った。
「雑誌か、なにかの取材ですか?」
「ブログに載せようかと。」
と答えると、
「宣伝してね、ありがとう。」
と手を振り、ひまわりに入って行った。
50年ほど前からの常連さんだった。
なんだか自分も青春時代から通っていた様な気になる。
私にとってこの街は「不思議の街」なのだ。