盛岡食いしん爺日記
<音楽が流れます、音量に注意して下さい。>
病院で月例の検診の帰り、
盛岡、旧町名葺手町を歩いた。
好きな路だ。
珈琲を飲もう、と言うか「羅針盤」に入ろうと思った。
「羅針盤」としてオープンし7年が過ぎた。
前は昭和40年代後半に開店した「六分儀」という喫茶店。
8年ぐらい前だろうか、まだ六分儀の頃、数年ぶりで訪れた。
店を閉めるとは知らず珈琲を飲んでいた。
壁にベルナール・ビュッフェの「サーカスの女」。
いつもと同じ様にシャンソンが流れていた。
たまたまお客さんも少なかった。
それまで、あまり話したことのなかったオーナーに声をかけた。
「ビュッフェが好きなんですか」と聞くと、
「はい、開店するときに、何か記念にと思ったのです。絵が好きなもので、絵にしようかと考えていたら、ある画廊でサーカスの女シリーズを展示していたのです。これだと思いまして」
実は、私も版画集を持っていた。
もう一つ気になっていたことを聞いた。
「シャンソンが好きなんですか?」
「いえいえ、実は開店したての頃、あるお客さんに『この店は、シャンソンが似合う』と言われたので、ひと月ぐらいシャンソンを聞き、それから必死にレコードを集めたのが始まりなんです。」と丁寧に話してくれた。
私の孤独Ma Solitude/ジョルジュ・ムスタキGeorges Moustak
<音楽が流れます、音量に注意>
その後、多くのファンに惜しまれ静かに店を閉めた。
ところが、東京で珈琲とチョコレートの店を営む方が六分儀の後を引き継いだ。
そのオーナーは、岩手で学生時代を過ごし、
「六分儀」が好きな方だった。
静かに心を落ちつかせる場所だったそうだ。
そんな場所が残って欲しいと考え引き継いだ。
「六分儀」と同じく航海の道具である「羅針盤」を名前にした。
訪れた人が進んで行く方向への手助けと言う意味が込められている。
内装は殆ど六分儀のまま。
ドアを開けると、あの六分儀の世界。
壁にビュッフェこそないが、
シャンソンが流れる。
この貴重な空間とシャンソンは不思議なほどよくあう。
「珀」と言う珈琲。
やや深煎りで深い味わい。
本を持ってくればよかった。
無垢という名のチョコレート。
甘さと苦味のバランスがいい。
「珀」と「無垢」。
よくあう。
流石、チョコレートの店が営む「羅針盤」。
珈琲とチョコレートとシャンソン。
静かに時間が流れる。
ゆっくり美味しい珈琲とチョコレートを味わう。
時間の流れと共にカップと金色の皿が空になっていく。
変わりゆく街の中で、こんな風に続いていることが、
たまらなく嬉しい。
良い所を残し、ますます心が整う空間となっている。
何度か、六分儀と羅針盤のことをブログに書いてきたが、
しっかり備忘録として書き留めておこうと思った。