盛岡食いしん爺日記
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5月11日、
雫石町の滝ノ上温泉に向かった。
盛岡から小岩井農場を経て奥羽山脈の懐に入る。
網張方面に行く道を曲がらず葛根田川沿いに西へ。
ブナや色々な樹木の新緑。
盛岡の街では若葉の緑が日毎に勢いを増すが、
この辺りは、まだまだ萌黄色だ。
雪解け水と近頃の雨のせいで川の流れは迫力がある。
She Is Michelle · Gato Barbieri
だんだん道が狭くなる。
せいぜい10キロの道程だが、
カーブもきつくなり、カーブミラーを頼りに走る。
いよいよ滝ノ上温泉という辺りで、
落差30メートル、「鳥越の滝」が見えてくる。
渓谷のあちこちから水蒸気が吹き上がっている。
この一帯の地形は鳥越デイサイトと言われる。
地下の深くから突き出てきた貫入岩が滝を見下ろす珍しい景観らしい。
竹の子が地表から顔を突き出した様だ。
止まることのない、地球の壮大年月をかけた動き。
人の一生ぐらいでは変化は分からないだろう。
そして、葛根田川の水が途方もない年月をかけ、滝と峡谷を削り出した。
滝から滝ノ上温泉は、もうすぐ。
この辺りは江戸時代(1683年)に金の発掘で人が入っていた。
当時、ここに来るだけで大変だっただろう。
滝の上にあるので「滝ノ上(かみ)」と呼ばれ、
あちこちで湧くお湯の種類も色々だったそうだ。
以前、滝ノ上温泉には何軒かの宿があり、
昭和20年代からは登山客や温泉客で賑わったが、
自然災害や老朽化などもあり衰退の一途を辿った。
一時は全て休業したが、
2019年、「滝観(りゅうかん)荘」がゲストハウスとして復活。
続いて川向に「滝峡(りゅうきょう)荘」も完成。
滝峡荘は、地熱バイナリー発電所を併設している。
滝ノ上温泉は新たな形で蘇った。
温泉と発電所を経営する岩岡さんから聞くと、
構想から10年かかり、
環境と自然エネルギーが調和した温泉郷を目指しているそうだ。
その日、白煙の勢いが凄い。
地表に出た辺りで渦を巻き、
白い龍が空に飛び出す様に見えた。
素敵なゲストハウス。
スタッフの方と会った。
「あっ、どうもありがとうございます!」
「今年は、いつからでした?」
「5月5日に開けましたが、今年は雪が多くまだあちこちに残ってます」
数年前は、5月半ばに道路の閉鎖が解除されたが、
少し早くなっている様だ。
滝ノ上温泉は、登山客が多いが、
今は、殆どの登山ルートがまだ雪で閉ざされており、
静かな始まりの様だ。
許可をいただき、女湯も撮らせてもらった。
男湯は角にあり、素晴らしい眺め。
源泉かけ流しのやわらかい湯。
肌がすべすべし疲れもとれ、心身共に癒される。
今年も始まった滝ノ上温泉を後にした。
地球の壮大さを感じながら秘湯で癒された。
ここから車で1時間もあれば盛岡の街中にいる。
盛岡ならではの贅沢だと思う。
一緒の人がむら八に行きたいと言うので向かった。
中で待つ人、車で待機する人がいる。
「どうします?」と聞いた。
「今日は待ちましょう」
店の方が、
「少々お時間がかかりますが、よろしいでしょうか」
「待ちます」と言いながらメニューを渡す。
10分もしないうちにカウンターでよければと言われて快諾。
久し振りのカウンター席。
背中を伸ばして中の様子を覗う。
厨房のスタッフの動きは無駄がなく小気味よい。
受け取る配膳の若い人達との呼吸もピタリ。
続々とオーダーが入る。
学生時代、
デパートの屋上のビアガーデンでアルバイトをした。
その店では、厨房やビール注ぎの人達が偉く、
配膳の係は、よく叱られていた。
私は厨房に配属され、一緒だった友達は配膳係。
その日のうちに、ビール注ぎのチーフが来て、
「移るぞ、こっちへ来い」と言われた。
蝶ネクタイの結び方をならい、ジョッキに注ぐ仕事だ。
泡の厚さを均一にするのが難しかった。
チーフ達は、配膳係には強い口調で激を飛ばす。
そういう序列を知った。
ここでは、皆が一つの輪になり、
きびきびと動く。
アルバイト先とは全く違っていた。
カウンターの向こうを見ては、
おかわりが出来るキャベツを食べながら待つ。
隣の人のアーク牧場のトンカツがきた。
「お先に!」とカツを頬張る。
「う~ん」と言って少し目を閉じ噛んでいる。
美味しさの最高のリアクションだ。
その人は、カニクリームコロッケの小も。
これまた嬉しそうだ。
私は、むら八で初めてのチキンカツ定食を食べてみた。
けっこうなボリュームだ。
食べてビックリ。
若鶏だろうか、しなやかで心地よい弾力。
噛むほどに鶏の旨味が口の中に広がる。
隣から「どう?」と聞かれ、
「う~ん、これは美味しい!」
一切れあげたが、驚いていた。
そして、今だけ限定の「花見牡蠣」。
とても大きいので1個にした。
三陸の宮古市赤前で育まれる。
厳選された牡蠣を海の栄養が豊富になる頃に、
再び海の中に戻し、3年も手塩にかけて育てられ大きくなる貴重な牡蠣だ。
盛岡では、ここでしか食べられないそうだ。
サクサクのころもに包まれた牡蠣は大味ではなく旨味十分。
美味しい!
牡蠣好きにはたまらない。
茶碗蒸しも。
ご飯も味噌汁もおかわりできる。
いいころ合いでお茶。
ある人が話していた、
「あの店は、料理は勿論、スタッフもいい」と。
会計しながら、
「今日も、美味しかった」と言うと、
忙しい中、丁寧に花見牡蠣のことも話してくれた。
チキンカツのファンも多いそうだ。
店を出ながら、一緒の人が真剣な顔で言った。
「やはり、食材を育てる人、
調理する人、運ぶ人など、常にお客さんを向いている人達が
繋がる店は、料理を更に美味しくしてくれるスパイスだ」
私は、深く頷いた。
ハレの日の陽食屋むら八(上田店)にて。