盛岡食いしん爺日記
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盛岡の官庁街の並木も新緑。
城跡の桜も散り、名残の枝垂れ桜。
それでも雨混じりの肌寒い日が続く。
厚手のコートを離せない。
Going Out Of My Head · Sergio Mendes & Brasil '66
昼頃、ある人からランチの誘い。
盛岡から遠野に通ずる国道396号を南へ。
ゴールデンウイーク明けのこともあり、
休みの店が多い。
取って返して三陸の宮古に繋がる道、国道106号線の方へ。
盛岡から北は青森、八戸へ。
西は秋田方面、東は岩泉や宮古へ向かう昔で言う塩の道。
そして、遠野方面へと繋がる道など数々の路の結節点だ。
それぞれの道は古くからあった。
今も秋田、青森、八戸や三陸などとの往来が盛んだ。
その日の話題は、珍しく地理的な話。
106号線に出ると、産直がある。
ここにあることは二人とも前から知っている。
トイレに寄ることにして車を停めた。
「天狗の里106 盛岡東部産直センター」
という名前だと初めて知った。
以前は、この前を何度も走ったが、久し振りで来た。
「農村レストラン 味の小てんぐ」の暖簾を一緒の人が指差す。
その人も何度となく通ってはいるが、
天狗の昔話でもあるのだろうという程度で
立ち寄らなかったそうだ。
たぶん、自分の記憶でも、
初めて見た時は天狗に惹かれたが、
何度も通るうちに特に気にならなくなっていた。
宮古へ向かう時は、盛岡の街を出たばかりで、
帰って来ると街はもうすぐだという辺りにあり、
ただ通過していた。
「よくよく思えば、天狗が気になるよね」
とスマホを持って調べ出した。
この辺りに昔話があった。
ある男の弟が山で薪取りをしていた。
夜になっても帰って来ず、
兄は弟が神隠しにあったのかと山々を探したが見つからなかった。
弟のことを諦めきれずにいると、
5カ月ほどして突然、姿を現した。
山で天狗にさらわれ、
橋を架ける仕事を手伝わされた。
しかし、ご飯も食べさせてもらい、少しも天狗が怖くなかった。
家が恋しくなり天狗に話すと、
よく稼いでくれたと、
巻物とヤカンとゴマ石で作られた薬鉢をくれた。
天狗は、薬草や薬の作り方を教えてくれた。
里に帰った弟は、皆のために薬を作って感謝された。
しかし、火事で巻物が焼け、作り方が分からなくなった。
薬鉢だけが残ったという話だった。
立ち話をしていたが、
顔を見合わせ、摘み草料理の小旗を見て「味の小てんぐ」の暖簾を潜った。
食券の販売機があり、
壁に貼られたメニューには、ラーメン、うどんから蕎麦まである。
蕎麦冷麺もあった。
「手打ち蕎麦なんだ」と一緒の人は蕎麦を選んだ。
摘み草天ぷらも。
その日の天婦羅は、
玉ねぎ、紅生姜、葉ワサビ、ウドの若葉、菊芋と銀杏。
蕎麦を食べ始め、
「うん、この蕎麦、美味い!」
味見させてもらったが、
いい具合のコシ、蕎麦の風味が強い。
確かに美味しい。
私は、「ひっつみ」と天婦羅。
「ひっつみ」とは、岩手の郷土料理。
小麦粉を練って薄く伸ばし、
野菜鶏肉などと一緒に煮こんだもの。
ひっつみは、もちもちしてつるんとした食感。
小天狗のひっつみは、
干し椎茸がたくさん入っている。
ぷ~んと香る椎茸がいい。
竹の子や野菜もたっぷりで美味しい。
食べ終わって大満足の二人。
食器を返却場所に運びながら、
「とっても美味しかったです」と言うと、
店の方が、
「どちらから?」
「いえいえ地元です」と言うと
「あら」と笑う。
帰りながら、
天狗の伝説と手打ち蕎麦とひっつみが良く合う。
近頃、ひっつみを食べられる店が少なくなったなどと、
話が盛り上がった帰り道だった。