盛岡食いしん爺日記
<音楽が流れます、音量に注意してください。>
ちょっと午後からドライブ。
午後といっても3時過ぎ。
夕方の始まりの頃。
北へ。
盛岡の街中から出て、ロードサイドの店が続くバイパスを走る。
さらに北へ。
住宅地を過ぎ、玉山の方へ。
信号が少なくなる。
まだ稲刈りが終わっていない田園風景。
岩手町に着いた。
「道の駅 石神の丘」に車を停めた。
もう4時を過ぎている。
産直を見て回り、りんごを買った。
Frank Sinatra - Strangers in The Night
ここには石神の丘美術館もある。
珍しい彫刻の美術館。
週末の日中は大賑わいだが、平日の夕方は閑散としている。
辺りを見ると樹々が色づき始めていた。
日に日に深まる秋。
「あいあいバス」の停留所。
岩手町、沼宮内の中心を循環するバスだ。
循環バスのほか中心部から、
あちこちの集落への路線もある様だ。
暮らす人の大切な足になっているのだろう。
立ち食い蕎麦の「茶屋っこ」もある。
まだ開いていたが、迷う。
ちょっと夕飯には早い。
でも、久し振りに食べたい。
かれこれ2年、いや3年、もっとかもしれない。
しばらく食べていない。
その時、聞こえた天の声。
「迷うなら、何でもやってみるべき」
自販機の前に歩み寄り、
十割天ぷらそばのボタンを押した。
まだ間にあうと思った人達も食べに来た。
ほのかに上がる湯気。
蕎麦つゆの匂い。
店の人が水を持ってきてくれた。
「食べ終わったら、棚に置いてください」
「ありがとうございます。分かりました」
「切れやすくて食べにくいでしょ」
「いえいえ、美味しい!」
「では、ごゆっくり」
後片づけを始めた。
地元の蕎麦粉で、つなぎを使わない十割蕎麦。
短いが蕎麦の風味良く、美味しい。
これが好きなんだ。
天ぷらを割るとごぼうのいい匂い。
中学時代、八幡平市の荒屋新町に1年半暮らした。
合併前の安代町だ。
高校生になり、父を残して家族は花巻へ移った。
週に1度、帰って来てはとんぼ帰り。
当時、土曜は半ドン。
今や「半ドン」は死語。
土曜日は昼まで働くのが普通だった。
父は、暗くなりかけて花巻の家に着き、
日曜の午後には帰って行った。
旧盆と正月がゆっくりできる時。
その頃、年越し蕎麦は、安代のおばあさんたちが打つ蕎麦だった。
父が大切そうに抱えてきた。
自ら蕎麦つゆを作った。
「さっと茹でればいい、すぐ、溶けだすんだよ」
紅白歌合戦が終わると、炬燵で蕎麦を食べた。
ぽろぽろと切れやすいが子供心に美味しいと思った。
十割蕎麦の味はずっと心の奥にある。
私の蕎麦の原点かもしれない。
十年ほど前、ここで食べて思い出した。
完食してお盆ごと棚に置いた。
刻々と変わる空。
そろそろ盛岡へ帰ろう。
岩手山の稜線が美しい。
「食べてよかった」と思った夕暮れの綺麗だった日。
岩手町
道の駅 石神の丘、石神の丘美術館