The Boy From Ipanema · Diana Krall
<音楽が流れます、音量に注意>
北国の晩秋。
夜のとばりが下りる前、小岩井を走る。
少し開けた車の窓から冷たい空気。
ヘッドライトに浮かぶ森に入って行く。
ここから数キロ先の滝の上温泉を目指す。
まだ6時というのに真夜中の様な闇を走った。
少し心細くなった頃、
ゲストハウス滝観(ろうかん)荘についた。
窓から零れる灯りにほっとした。
中に入るとみんな集まっていた。
今宵は自炊で三陸の海の幸を味わい尽くす会。
すでに各自が思い思いに持ち寄った物を
好きに調理していた。
「ん?」
何をしているのかと思ったら、
広く大きな窓ガラスにへばりついて外を見ていた。
口々に「なかなか見えない~」と笑う。
序章は勝手に始めるらしい。
初参加なので勝手がわからない。
調理場では、
男の人たちが腕まくり。
芋の子汁に肉豆腐の鍋から立ち上がるいい匂い。
温泉に入っていた人たち上がって来た。
乾杯の後は続々と日本酒、ワインと料理がテーブルに並ぶ。
黙々と食べる人、呑む人。
出来た料理を運ぶ人。
勝手でいいそうだ。
色々な会と違って開放的で自由。
それにしても美味しい芋の子汁だ。
いよいよ三陸の海の幸が登場。
艶々の帆立。
何もつけずに食感と甘味を存分に楽しむ。
若い人達はピザも。
松茸ご飯に肉豆腐も。
秋の味覚満載の夜。
「お~」
山田湾で採れた「アカザラ貝」だ!
養殖棚にはびこり、厄介者だったアカザラ貝。
地元では、ホタテよりも美味しいととう話もあった。
しかし、足が早く消費地に出荷しにくかった。
鮮度が落ちやすいのだ。
最近になって新たな名物として売り出され、
メディアでも紹介されている。
ホタテの仲間らしいが、
旨味が強く、美味しい。
テーブルに殻が重なる。
また鍋で蒸される。
日本酒やワインに合いそうだ。
酒瓶も空いていく。
旨味が詰まった牡蠣の燻製も美味しかった。
ワイングラス片手に三陸の幸の美味しさを語る人。
どんどん調理する人。
やはり飲み食い専門の人。
忘れそうになっていた久し振りの雰囲気。
ノンアルのビールで酔いしれる。
次はやはり、養殖棚の厄介者として扱われていた「ムール貝」。
今では各地のレストランで見かける食材。
カキ養殖をしながら、新たな名物も生まれてきた。
酒蒸し、ワイン蒸しで熱々。
美味しいに決まっている。
滝観荘は、ほぼ貸し切りで、
広い施設を利用できる。
私は、よく日帰りで温泉に来ている。
顔馴染みのスタッフの方と話していると、
オーナーの岩岡さんも挨拶にきた。
「滝ノ上地熱バイナリー発電所」と復元された「滝峡荘の風呂」
本格的な発電も近い。
二つの温泉が完成し、、
「滝ノ上温泉郷」と呼べるようになったと、
静かな口調で語っていた。
環境学習の場ともなり、地域の再生を目指す事業。
地熱開発の「優良事例」として環境省からの認可がおりた画期的な事業。
復元された檜の滝峡荘の風呂。
滝観荘の湯。
盛り上がる中、誰かが言った。
「星空を見に行きます。」
ぞろぞろと後に続いた。
澄み切った夜空に満天の星。
宴もたけなわながら、
明日、早くからの予定がある。
準備もあって日帰り。
それでも十分楽しんだ。
風呂上がりの皆に送られた。
帰りの道は、
来た時よりヘッドライトに写る森が深い。
音も無く、木の葉が散る。
外は冷えている。
盛岡に着いて明日の準備を済ませた。
復活された温泉と新しい山田湾の名物などを楽しんだ。
頑張っている作り手たち、
一緒だった人たちに感謝の気持ちが湧き上がる。
「いい日だった。11月半ばまでは温泉に入れるなあ~」と思った。
こんな暮らしを重ねたいものだ。
滝観荘
〒020-0584 岩手県岩手郡雫石町西根159−311