Enya - Caribbean Blue
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雪深い山懐に春の訪れを告げる薄紫の花。
西和賀には、安ヶ沢、廻戸(まっと)、大荒沢(おおあらさわ)など、
カタクリの群生地が多い。
その日は安ヶ沢を訪ねた。
畦道を少し歩くと杉林。
もう少し行くと開けてきたと思ったら、息が止まるほど綺麗だった。
木漏れ日に薄紫の妖精たちの世界を見た。
中学1年の頃、家族で湯川温泉に行く途中の事だった。
親戚も一緒で車2台で行った。
温泉が近づいた辺りで、父が車を運転する叔父に停めてくれと言った。
ひとり降り、道端から林の中を指差した。
木漏れ日の中、あちこちに咲く薄紫の花。
根は深く、花が散ってから掘る。
すると「でんぷんがとれるんだ」と言った。
江戸時代に幕府への献上品だったカタクリ粉。
旧南部藩には、お抱えの「片栗師」がいて名字帯刀を許されていたほど。
多くは花巻の城下で精製されていたという。
そんな話を聞いた。
十年ほど前、盛岡劇場近くの老舗菓子店「丸基屋」で、
南部藩に因んだ双鶴(そうかく)というカタクリ粉で作る和菓子に出会った。
勿論、今はカタクリから採るわけではない。
うず高く積もった白い世界が見事な薄紫に変わる。
自然とは凄いものだ。
西和賀、沢内の所々には、まだ雪が残っていた。
家の一階を隠すほどの雪は、魔法の様に溶け、春は一気にやって来る。
帰りも山伏峠のトンネルを抜け、雫石を経由。
ここでは菜の花が満開だった。
ちょっとした斜面で見つけた山吹の花。
西和賀の始まったばかりの春を楽しんで盛岡へ帰って来た。
夕方から、数人での集まりがあった。
ある方に採れたての三陸の海の幸が届き、調理して振る舞ってくれた。
集まった人達は、今年のゴールデンウイークも近場で楽しんでいた。
テーブルに置かれると、あがる歓声。
綺麗なホヤだ。
臭みもない、かといってホヤの風味はばっちり。
喉越しのよさに唸ってしまう。
牡蠣もぷりぷり。
バター焼きも美味しい。
ホヤも牡蠣も苦手な人が言った。
「これならもっと食べたい」
艶々した帆立。
歯にあたってサクッと割れる感じ。
何もつけなくても美味しい。
別の人が言った。
「盛岡は、いいなあ~海の物も存分に楽しめるし、いよいよ山菜だなあ~」
頷いた。
「あと、温泉も暮らしの一部です」と言うと皆が笑った。