I Hear a Rhapsody - Bill Evans, Jim Hall
<音楽が流れます、音量に注意>
その夜、用事を終え、
9時過ぎに街を歩いていた。
盛岡駅の近くは、
さすがに人の流れが少ない。
夜景が奇麗だ。
開運橋は、ライトアップされていたが、
かえってもの悲しく見えた。
家路を急ぐ人達がポツリポツリ。
歩いていると今は大きな道路ができ、
裏通りになった昔の商店街が見えてきた。
「どんな風になっているのだろう」
昔、踏切だったが今は地下道になっている。
通りに入るとすぐに入口が見えた。
ふと立ち止まり、辺りを見回す。
「開かずの踏切」と言われ、
あの頃は沢山の人が待っていた。
地下へ通じる階段を下りた。
「本当に向こう側に街があるのだろうか?」
と思った。
向こう側から女性が自転車を押して来た。
その後ろから男が足早に追い越していった。
振り向くと誰もいないような気がした。
耳を澄ます。
足音が小さくなっていった。
少し急いで階段を上った。
すると向こうにオレンジ色の灯り。
覚えがある道。
横断してまた先に。
細長い商店街だったはずの通りは静かだ。
横道の先も暗い。
移ってしまった通りが見える。
車が行き交っていて、軽く息を吐いた。
大きな通りに抜けると脚に力が蘇った。
夜風の冷たさを忘れていた。
なんだか遠くの街へ行ってきた気がした。
この話を誰かにしたいと思った。
スマホを取り出し時間を見た。
「あれ?」
11時を過ぎていた。
両脚は、2時間を超えて歩いた感覚ではなかった。
せいぜい1時間ほどだと思うが・・・
翌日、長い付き合いの人を夕飯に誘った。
トンカツの「はたや」に行った。
小さなすり鉢でゴマを擦る。
そこにソース。
食感がたまらない。
さくさくの衣に包まれた肉の旨味。
美味しい。
ゴマの風味が、トンカツをさらに美味しくする。
トンカツを楽しみながら、
昨夜の話をしてみた。
すると、
「これトンカツで、チキンカツじゃないですよ」と大笑い。
「えっ?」
「単に、怖かったんじゃないですか?」
喉の奥まで見えそうに笑う。
会計を終え、店の入ったビルの裏から出た。
このビルの通路や裏の階段にも昭和が潜んでいた。