中島みゆき「麦の唄」Music Video [公式]
<音楽が流れます、音量に注意>
中島みゆきさんの歌に文章を書くのは勇気がいる。
でも、あえて書きたい物語と見て欲しい光景がある。
9月半ばに咲く向日葵があると聞いた。
岩手県一戸町、奥中山。
なだらかな丘一面に広がる向日葵。
3時頃には着く予定が、アクシデントが続き、もう5時も近い。
西の山並みにあるはずの太陽は、雲に隠れていた。
この地に時期をずらし、
秋に咲く様に植えたと聞いた。
越えてきた国道4号線の奥中山峠の標高は500メートルを超える。
夕暮れ時の風は冷たく、長袖を羽織る。
向日葵の葉にすがるトンボの背は紅い。
短い命は、静かに明日の太陽を待つのだろう。
ここは、一足早く秋も深まり、
冬になれば道路際の雪もうず高くなる。
そろそろ帰ろうとカメラのレンズに蓋をした。
「こんにちは、どちらから?」
「盛岡です」
「丘の斜面に並ぶ向日葵は綺麗ですね」
と言うと、
その女性は、近所に実家があり、よく見に来るそうだ。
「どんな方が育立てているんですか?」と聞いてみた。
数年前、ここに植え始めた人は若くして、
突然の事故で逝ってしまった。
広い丘の斜面に咲く向日葵を、
奥さんと子供達だけで育てるのは、
とうてい無理な話。
ところが親戚や近所の人達が、彼の想いを継いだ。
「秋も深まって咲く向日葵」は、途絶えずに咲く。
青年海外派遣協力隊として南米へ行った青年は、
派遣先で恋をし、奥さんを連れて故郷で農業を始めた。
向日葵に想い出もあったらしい。
しばらく話を聞いているうちに、
西の空が明るくなり、少し夕焼け。
見上げた丘の斜面は、ことさら美しい。
駐車場もみんなで整備。
そう話してくれた人の親戚も手伝っているそうだ。
「まだ、見頃は続きます。良かったら、またどうぞ」
「来ていただいて、嬉しいんです」
と車に戻って行った。
帰ろうと振り向いた東の空に、くっきりと架かる虹の橋。
大地から大地へと続く半円。
こんな虹は、初めてだ。
幾つものアクシデントが重なり、予定が狂ってしまった。
しかし、虹を見て思った。
順調だったら、
女性に会い、物語を聞く事もなく、
美しい虹を見る事もなかった。
偶然の重なりが織りなす物語に、
「運命」という言葉か浮かぶ。
帰りに、奥中山高原駅近くの立花食堂に入ってみた。
天ぷらそばを頼んだが、メニューには「カツラーメン」もあった。
もう70年近いそうで、昭和の空気漂う場所だった。
天ぷら蕎麦の懐かしい味。
「もし次に来たら、カツラーメン食べてみて下さい」
前は、蕎麦を打っていたご主人が病気をし、
蕎麦打ちは止めたそうで、ちよっと淋し気に見えた。
昔の賑わいは幻の様で、子供達も見かける事は少ないと言う。
色んな場所に、それぞれの物語。
帰りに奥中山高原駅を覗いてみた。
旧名は中山駅で、標高427メートル。
東北本線で、盛岡・小繋間は、
最大の難工事だったと掲示されていた。
すっかり暮れた帰り道。
3時間半のドライブだったが、
私にとっては、「心に重く残る旅」になった。