G線上のアリア 中川昌三
<音楽が流れます、音量に注意>
真夏になると待ち遠しい電話。
今年は、連絡がなく諦めかけていた9月早々。
「今年は遅くなりました。今日、いいですか、来れます?」
「はい、勿論!ありがとうございます。」
スマホを耳に当てながら、
気がつくと立ち上がっていた。
<自分的真夏の風物詩「小さなキュウリのキムチ」>
陽は傾いても外は暑かった。
歩いて十分ほど。
急ぐつもりはないのに、喉元の辺りに汗。
家に入る前に、ハンカチを手に取る。
額、顎、首と拭く。
「失礼します!」
今年は、小さなキュウリの育ちが遅かったという。
二重にビニールの袋、更に紙袋。
受け取るとずしり。
喜びも重くなる。
帰り道は、家に着いてTシャツを着替えるほどに汗をかいた。
夕飯前にと2軒ほど分けて歩いた
二軒目の友達の家に着くと
「あがっていけよ」
「じゃあ、少し」と家に入るとタオルを貸してくれた。
エアコンの風が気持ちはいいが、
さっき着替えたばかりのTシャツの胸元が冷たい。
炊けたばかりのご飯にキムチ。
皆でお代わり。
友人のリビングに、こだまする「美味しい!」
逆に御礼を言っての帰り道。
空地に咲く花は、秋明菊だろうか?
ぬるい風で涼む黒猫君。
語りかけたくなる。
季節を感じ、人から美味しさをもいただいて、
ゆっくり歩く。
そう言えば、キムチのキュウリの作り手も知らない。
誰かが大切に育み、知り合いのお婆ちゃん達が心を込めて漬ける。
色んな人と繋がっている。
そんな日は、野の花の名前も知らないが、とても綺麗に見えた。
道端の黒猫君も近くに寄って声をかけても逃げなかった。
「人は人と繋がり、花や動物たちと一緒に暮らし、生きている」
なんて思う帰り道。
「今日はいい日だった」
今宵は、眠る前に、
もうひと口だけ「小さなキュウリのキムチ」