あの日に帰りたい - 小野リサ

<音楽が流れます、音量に注意>

 

 

「今どこにいる?」

「花巻だよ」と答えると届け物があると言う。

彼も忙しいらしく、道端で会うことになった。

 

「宅急便だ」

片手で持てそうな箱を両手で差し出す。

「今年は間引きに失敗したが、そこそこ」

とだけ言うと車に戻った。

 

ダンボールの箱には紅い桃が並んでいた。

 

<古い友人の「紅の桃」>

鮮やかで、しばらく飾って置きたい。

 

 

彼は、高校時代からの友人

学生時代は東京。

毎週の様に数人で呑み歩いた。

あの頃は殆どジュク(新宿)。

 

大都会の暮らしにも慣れた頃、

どういう流れからか、

二人で銀座で呑むことになった。

待ち合せは東京駅の八重洲口だったと思う。

互いを見つけて、

「なんで!」

彼は、濃紺のコーデュロイのスリーピースにブルーのシャツ。

こっちも同じスリーピースにシャツは薄いピンク。

似たニットのネクタイ。

雑踏の中、

肩まで伸びた髪をかき分けて大笑い。

 

ポケットにありったけのお金。

でも目指すBarにも入れなかった。

帰りの電車で、二人の背中は少し屈んでいた。

二十歳には、まだ大人過ぎる街だった。

 

結局、ジュクで飲み直すと背中が伸びた。

やけに気取ってカクテルなんか二杯、三杯。

 

(モノクロ・写真撮影 松木 世以子 協力 Cafe・Bar Nevis )

 

酔いに乗じて、

素敵な女性に話しかけろと腕をつつき合った。

 

 (モノクロ・写真撮影 松木 世以子  モデル KUMI 協力 Cafe・Bar Nevis)

 

 

偶然、揃ったスリーピースで朝まで呑み歩き、

深夜喫茶で始発を待った。

 

四年生になっても労働意欲のなかった二人だが、

こっちは地元で、お固いサラリーマン。

彼は、数年の足踏みを経てサラリーマン。

 

十数年前、

彼は、独り、地元に戻って来た。

「考えなくても済む仕事がいい」

「のんびり果樹でもしてみたい」

などと話していた。

 

突然、届いた紅の桃。

葉までつき、底にはビニール。

 

 

 

ほどよい歯ごたえに続き、

甘い果汁が溢れ出る。

とても瑞々しく、桃好きにはたまらない。

分けた人から「どこで買えるのか?」

とメールが来た。

今年、食べた桃ではダントツ!

 

 

電話した

「とても甘くて美味しかった」

「去年は、もっと甘かったんだ」

 

長電話のうちに昔話に。

「青春、あの頃に戻りたいか?」

と聞いてみた。

「いや、別に」

と笑う。

 

 

日が暮れる。

また一日分、人生が過ぎた。

明日もコロナや猛暑のニュースだろう。

とにかく、その日を悔いなく過ごしたい。

 

 

 

 

にほんブログ村 地域生活(街) 東北ブログ 盛岡情報へ
にほんブログ村 にほんブログ村 グルメブログ 東北食べ歩きへ
にほんブログ村 にほんブログ村 スイーツブログへ
にほんブログ村