和泉宏隆×神保彰×鳥山雄司(PYRAMID) - Love Infinite ※Vl.葉加瀬太郎
「すいません、少し待ってもらっていいですか?」
昨年の冬に開店した「蕎麦将軍」の若き親方。
その日は、一人で奮闘。
8時近くに入ったが混んでいた。
作っては運ぶ、
空いた器を下げ、レジを打つ。
額に滲む汗。
マスクの中は大変だろう。
数分待って席が片付いた。
美味しそうな蕎麦を見つけた!
「冷たいナスのそば一つ」と言うと、
「すいません、今日は出てしまいました~」
それではと頼んだ
「冷たい野菜かき揚げ蕎麦」
新玉ねぎの甘いこと。
蕎麦を覆いつくす、野菜のかき揚げ。
ほぐして蕎麦と交互に食べる。
よくタレと絡む。
ひょっとしたら、冷たい蕎麦は細いかもしれない。
ピーマンも頼んだ。
さらりと炒め、濃いめのたれの上に載る。
その上に鰹節。
ピーマンに苦みもなく、硬そうに見えて、
口の中で柔らかい。
鰹節が風味を醸し出す。
シンプルなのに美味しい。
8時を過ぎて、お客さんは帰り出した。
ラストオーダーの半頃には静かになった。
片付ける親方の動きも緩やかに。
盛岡の名店、蕎麦喰い処「やまや」で修業し、独立。
そば湯を持って来た。
「すいませんでした、ごたごたして」
たまたま一人で、一日、大変だったようだ。
開店して数か月でコロナ。
一時はテイクアウトだけで頑張った日々。
一緒に外へ出て、
マスターは暖簾を外した。
いつもどおり眼は輝いていたが、
背中には疲れが滲んでいた。
「あれ、また忘れた」
今宵も聞きそびれた「蕎麦将軍」の名前の由来。
盛岡市の中津川東岸の八幡界隈。
古い街で、夜の人影もまばら。
最盛期に比べれは、飲食店の数も減り淋しい限り。
でも、不思議なことにドアを開ければ、そこそこ賑わっている。
そして、ここ数年、
蕎麦将軍の様にチャレンジャーも少なくない。
ぱっと思い浮かべても片手をこえる。
この街の灯りは、
どうなっていくのだろう。