<音楽が出ます、音量に注意>
「初めて来たのは、いつだったかな?」
「一茶寮」で、珈琲を飲みながら考えていた。
かるく三十年は遡る。
たいてい木の広いテーブルの端っこ。
<「一茶寮」で、ブラジル>
二十代の頃、
珈琲をお代わりして、
2時間近く、何かを話していた。
テーブルを挟んで互いにムキになり、
怒って立ちあがったレモンイエローのワンピース。
菜の花の様に鮮やかだった。
三十代、
太い柱の後ろから聞こえてきた別れ話。
女性は、一人で先に店を出た。
しばらくして、立ち上がった男の人は知り合いだった。
聞こえなかった顔の微笑で、軽く手を振った。
今も微かに残る自分の嫌な作り笑い。
四十代、
何人かの後輩たちの悩みを聞いた。
自分は、人生の先を歩いているだけで、経験しかない。
さして役に立たない心の処方箋だった。
その後、当時の職場を去った人も。
みんな元気だろうか?
年を重ねてからは、
蒸しパンセットをよく食べる。
もちもちのパン、やけどしそうな熱々のスープ。
とても美味しい。
「この蔵は、230年ぐらい経っているようです」
と聞いたのは、何年前だろう?
また、時は流れた。
<「一茶寮」の蒸しパンセット>
人も街も変っていく。
でも、「一茶寮」の変わらない佇まい。
この頃、ますます時間の流れが早い。
ここでは、時は止まる様だ。
頬杖をついて目を閉じる。
昭和の頃の声が聞こえてきそう。
優しい光の下で、色々な人と話した。
もう会えなくなった人の姿もゆっくり蘇る。
階段を下りるとギシギシと音がする。
一段ごとに現実の世界へ。
2階はカフェ「一茶寮」
1階はギャラリー「彩園子」
まだ、陽は高い。
夕飯までには時間がたっぷり
古い街並みをゆっくり歩こう。