Stan Getz & Charlie Byrd -Desafinado
<音楽が出ます、音量に注意>
あのシャキシャキとしたもやし
時々、無性に食べたくなる。
地下へ続く階段を下り、紅い暖簾を潜る。
「いらっしゃい!おっ!」
「えぞっこ」の大将は元気。
すぐに「もやしラーメン」と言った。
「はいよ!もやしラーメンね」
注文すると昼を食べそこねた空腹が少し和らぐ。
<えぞっこのもやしラーメン>
「ふ~ふ~」と「ふ~」
麺を「ズズ~」っと吸い込む。
続いてもやし。
軽いあんかけに包まれたシャキシャキの歯ごたえ。
秘訣は「火との戦い」らしい。
とても美味しい。
ちょうど大将と二人きり。
その日は、昔の話になった。
このビルは、
昭和43年竣工で、盛岡初の飲食店が並んだテナントビル。
初代の「えぞっこ」を昭和48年に引き継いだ。
なんとサラリーマンから転身。
初めの2、3年は、職人さんが調理し、
夫婦で手伝いながら見様見真似で勉強。
その後、工夫を重ね自分の味に。
当時、空前の味噌ラーメンブームで、
とても注文が多く大繁盛。
毎日、昼は2時を過ぎても休めなかったそうだ。
その頃、肴町界隈は岩手県内一の繁華街。
向かいには川徳デパート。
盛岡バスセンターも近く、一日中人並みは途切れなかった。
「バスセンターの2階の喫茶店で、
お見合いした人もいたらしいよ」
と笑う大将。
昭和の頃、
ビルの地下には、他に中華店や鮨屋、居酒屋など。
「みんな大繁盛だったね~」と宙を見る。
それから、ほぼ五十年。
時は流れ、平成に入ると近郊に大型店が続々。
車も増えてバスセンターも静かに。
しだいに賑わいが移っていった。
<時代と共に価格も変わってきたのだろう。>
「あの頃はね、夜に一杯やりながら食べる人も多くてね」
雑談から「川柳の集まり」も出来たという。
店のカウンターの壁に川柳の色紙が並んでいたことも。
話し込んでいるとお客さんがちらほら。
「なんにしゃすか?」
「ビールと餃子ね」
まだまだ聞いていたいが、立ち上がった。
店を出て、トイレに寄った。
名店街も今は「えぞっこ」だけ。
一階にはコンビニ。
地上に出ると令和の風。
冷めたい空気に、マフラーを口まで上げた。