<音楽が流れます。音量に注意>
突然来た「夏の終わり」
盛岡の中津川の東は古い街並み。
八幡界隈を歩いて盛岡劇場の向かい「いなだ珈琲舎」で一休み。
「いらっしゃいませ!」
入ってカウンターの左の隅に座る。
たいてい端っこ。
あんなに蒸し暑かった夏が消えかかる。
「夏も終わりだね」と言ったら、
「最後の夏があります」ときた。
<夏の終わりのコーヒーフロートは、絶品!>
雑味の無い珈琲の味をベースに自家製アイスクリーム。
これがまた、とても美味しい。
「たぶんこの夏は、これでおしまいです」
「アイスクリーム屋をやったら」と言ったらマスターは、大きな声で笑う。
口の中で、どうして濃厚感がさっぱり感に変るのか。
ほど良い甘さは舌になめらかで、思わず笑みが零れる。
ひと匙ごとに美味しい夏が消えていく。
夏の終わりを味わい尽くし、ドリップパックをひと袋。
デザインは「さいとうゆきこ」さん。
よく考えればどうして、ラッパを吹いているんだろう。
話をふってみた。
トランペットも吹く音楽好きのマスターに眼をつけて、
飾ってあった天使の像をモチーフにしたということだった。
仕事に追われて外へ出る時間も惜しむ時、一杯の珈琲にすがる。
いなだ珈琲舎のドリップパックに描かれた可愛らしい天使。
マスターは語る。
朝起きて一杯の珈琲で、
「さあ、今日も頑張るぞ」
と想ってもらえたら嬉しいと。
彼は、東日本大震災の時、まだ広島にいた。
豆を担いで、縁のある被災地にすっ飛び、珈琲を淹れた。
温かい一杯で、
ほんのひと時でも、ほっとして欲しかったと静かに語る。
長い間「盛岡食いしん爺のもりおか自慢」を取り扱ってもらっていた。
雑誌の中には、この店の名前しか出ていない。
棚に、置いてある一冊は、かなりほころび、幾重にもテープが貼ってある。
こんなになるまで、沢山の人が見て、
その都度マスターが治してくれた。
ありがたいことに増刷。
持っていた改訂版と取り換え、記念に持ち帰った。
また「手に取ってもらえる企画」を考える帰り道。
人は人からエネルギーをもらう。
いなだ珈琲舎の「夏の終わり」は、とても美味しかった。