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12月の上旬に「きじやまカフェ」へ

夫婦は相変わらず、ごく自然に迎えてくれる。

「お身体の調子は?」と奥さん。

返事をする前に、

「食いしん爺さんは、大丈夫だよ、絶対!」とオーナー。

 

先客が3人いて、テーブルを囲んで楽しそう。

 

手で煎る珈琲を注文。

珈琲豆の刷り合わさる音と香り。

 

<パウンドケーキとお客さんの土産のお菓子も>

 

 

ゆっくりと珈琲を飲みながら、外を眺める。

窓に襲いかかるようだった濃い緑も、今は岩手山が遠くに見える。

 

 

 

もう12月なんだ。

 

 

 

オーナー夫婦とお客さんの談笑に混じる。

 

しばらくして先客は帰り、入れ違いに一人の中年男性が入って来た。

奥さんは、テーブルを片付けて、招き入れた。

辺りを見回すのは、不思議な場所だから、当然のこと。

外から見ると、「ここはなんだろう?」と想う。

 

初めてのお客さんにも奥さんは、コーヒーを出しながら声をかける。

何度か散策しながら通ったが、気になる場所だったそうで、

今日は、思い切って入ってみたと話していた。

 

 

 

 

 

傍らの椅子に腰かけて、奥さんは、

「どちらからいらしたんですか?」

「今は、この近くですが、もともとは県北です」

そのお客さんは、葛巻と一戸の境のとても田舎出身だという。

 

そろそろ北国の厳しい冬が始まる。

奥さんは聞く、

「雪は多い場所なんですか?」

「今は、さして、でも昔は・・・・」と少し上を見ながら語り出した。

 

<それは昭和の後半の頃>

小学校の時、バスに5キロ乗り、徒歩で4キロの通学。

冬の修業式、その日は朝から吹雪だった。

先生から早く帰りなさいと言われ、通信簿を受け取りに来ていた母と一緒にバスに乗った。

 

停留所から真っ白な世界を歩いた。

あまりの猛吹雪に心配したお父さんが迎えにやって来た。

小学生のKさんは、父の長靴の黒いかかとだけを見つめて後に続く。

 

「父は、わざわざ、ちょっと先に行き雪をならして、歩きやすいようにしてくれました」

しかし、時々、黒いかかとも見えなくなるほどの猛吹雪。

父と母に挟まれて歩いていたが、なかなか家に着かない。

だんだん雪も鉛色に見えて来た。

「家の灯りが見えるはずだ」と父は言い、黙々と雪をかく。

それでも灯りは見えなかった。

「あ~ こうして死ぬのかもしれない」と想った。

 

やっとのことで微かに灯りが見えた。

「バス停から歩いて普段の倍以上の4時間もかかっていました」

 

 

 

 

 

 

話しに皆惹き込まれていた。

珈琲とパウンドケーキを食べる。

とても美味しい。

 

Kさんは、自ら語り出すタイプではないようだ。

初めての人も二人の雰囲気に包まれて、何かを話してもいい気分になってしまう。

 

よく来るお客さんが言っていた。

「癖になるんです」

 

カフェを出て、外は寒い。

冬は坂を登るのが大変そうだ。

本格的に降る前にまた来よう。

たぶん、Kさんも時々、珈琲を飲みに来るのだろう。