<音楽が出ます、音量に注意>
先週、1枚の写真が送られてきた
「お元気ですか、一茶寮にて」とだけあった。
「一茶寮」の蒸しパンセット・スープと珈琲もついている。
<美味しいセットには、たっぷりのジャムとバター>
一茶寮は、擬宝珠のある上ノ橋を東側に渡り、古い町並みが続く街にある。
今でも時々行くが、昔は夕方、頻繁に行った。
蔵が2棟並んだ奥にある。
手前は、漆黒の壁に囲まれた蔵で、その奥に白壁の蔵がある。
入って階段を登る。
一足ごとに、ぎしぎしと古い木が鳴くが、嫌な音ではない。
二階は、音楽も無く、ただ静寂の世界。
灯りも、柔らかい。
まだまだ現役の太い梁。
盛岡らしい場所の一つだと想う。
春も近いのに、雪が降る日だった
仕事に戻るので、黙々と蒸しパンを食べていると、
「もっと話がしたいの、明日は?」
忙しい日々の中、ほっとする大切な時間が歪んで視線が斜めに堕ちた。
すると、一つテーブルを置いて一組の男女が視界に。
小さな声を更に押し殺した様に話していた。
行き詰った雰囲気は、こちらまで漂ってきた。
足元に重い空気が流れてくるとこちらのテーブルが軽くなった。
「あの人達、知ってる?」
「うん、知ってるよ」
「なんか変ね、普通じゃない」
僕らの顔が近くなっていた。
「嫌だわ、こんなとこで、あんな雰囲気」
そう言う話しぶりに棘が消えている。
「蒸しパン、少しちょうだい」
返事をする前に、二本の指が口に運んだ。
時間の歪みが消えていた。
ふいに、携帯が鳴った。
あの頃は、真っすぐなバナナみたいな形で、小さなアンテナがついていた。
便利な物が出てきたと感心したものだ。
家電は、誰が出るか分からない。
後ろめたさが無くても、いきなり相手の両親と話すことになったりする。
あの緊張感は、今は無い。
考えてみれば、緊張感が高いほど、相手に対して想いが熱かったりして。
一枚の写メから、色々と想いがこみ上がり、夜更かし。
もうすぐ盛岡に雪が降る。
近いうちに、一茶寮に行ってみよう。
出来立ての蒸しパン、温かいスープと珈琲の美味しいセットを置いて、
そくさくとカウンターに戻り、本を読んだり、どこか奥に消えてしまう店の人は元気かな。
黒壁の蔵にあった正食普及会が閉まってから、
どこのパンを使っているのだろう?
一枚の写真には、確かに蒸しパンが写っている。
あれ、写真に添えられた言葉に続きがあった。
「パンが変りましたが、美味しさは変わっていません、むしろもっと美味しいかも」
「あなたは、変わってしまったのかな?」
そのうち逢ってなんて言われるだろう。