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あれは、まだ社会人になりたての頃。
盛岡の大通りには、色々な店があり、ひと休みや待ち合わせの喫茶店には苦労しなかった。
大通りの裏の駐車場に戻る時、通りがかった「チロル」
チロルと言えば、「チーズケーキ」
一つ想い出すと次々に連なって記憶が蘇る。
「寄り道しよう」
チロルに入る前からチーズケーキが浮かんできたが、少し味の記憶が欠けている。
オーナーと少し話してみた。
「チロルは、もう、どのくらい経ちましたか?」
「50年ぐらいになりますよ」
「そんなに」
「あの頃は、チーズケーキそのものが珍しかったですね」
通りには、あちこちに喫茶店があり、そもそもチーズが苦手気味だったので、
数回来たかどうか、
しばらく珈琲とチーズケーキ眺めていた。
学生時代の夏休み、
東京に戻る日に、高校の同級生と待合せた喫茶店は、今はない。
一時間ほど近況を話し合い、店を出て駅に向かった。
近くに来た時、
「はい、中で食べて」と渡された紙袋。
「じゃあ、元気でね」と笑って手を振ってバス乗り場に駆けて行った。
「サンキュー」と背中に声をかけた。
バスは、もう出そうで、乗り際にチラリとこっちを見た様な見ないまま乗り込んだ様な。
東京へは友達と一緒に並んで座った。
列車が走り出して、紙袋を開けた。
サンドイッチが入っていた。
卵サンド、ハムとチーズ。
隣の友達が、
「あれ、おまえチーズ嫌いだったよな、仕方ないオレが食べてやるよ」
と手を伸ばす。
「そんなこと、ないよ」
飲み込むようにして食べていたハムとチーズのサンド。
それが、しだいに美味しさに変った。
「チーズは初恋の味」
東京に行ってから3年、初めて、もう少し故郷に居たいと想った。
久々のチロルのチーズケーキは、
さらっとして口当たりがいい。
粉雪の様なきめの細かさが、作り手の優しさを感じさせる。
とても美味しい。
もう一つ食べたくなる美味しさだ。
時を刻み続けるチロルとチーズケーキ。
次に来た時は、何を想うのだろう。
それも楽しみだ。