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9月のある日、
蕎麦好きを誘って直利庵へ。
昼時で、案の定混んでいたが二階には空席があると言われ、階段を上がった。
「久し振りの二階だなあ」と辺りを見回し、蕎麦好きは楽し気。
確かにしばらく階段を登った記憶がない。
「わんこ蕎麦に宴会、法事の後に食事したり、よく来たなあ」
蕎麦好きは、
「今日はかつ丼にする」と言うので、少し驚いた。
二人で来て同じものを食べたことがない。
しかし、その日は一致。
蕎麦好が「天ざる蕎麦」を頼むので、「同じ」と言えば、
必ず「じゃあ、なめこ蕎麦」と言う人なのだ。
露骨に意外な顔だったらしい。
「たまには、一緒も、いいよね」
ちょっと不気味なランチ(笑)
<直利庵のカツ丼>
今年、改装したが雰囲気は昔のまま
中庭を見たのも久し振り。
柱の沢山の傷は、歴史そのもの。
特に、階段を登り切った手摺は、傷だらけ。
どういう人が、どうして一つの傷をつけてしまったのか?
色んな事が刻まれているのだろう。
「そば前」という言葉を直利庵で知った。
若い頃、勤め先の先輩に連れられて来た若手二人。
その日は、土曜日で当時は半ドン
(週休二日制の前の話で、昼の十二時まで勤務だった)
「しっかり、昼飯食べて残業だ。手伝ってくれ、頼むよ」
「はい!」と二人。
「でも、まずそば前だな」とビールを二本。
本当は、蕎麦を食べる前に軽く日本酒を肴を頼み呑むのだと教わった。
しばらくして先輩は、空になったビール瓶を見て、
「ビール二本とお酒を二本、お願いします」と頼むと、
「そば前はも日本酒だよ、やっぱりお酒でなきゃね~」
結局、三人で、ビール四本と日本酒も四本は越えたと想う。
そして、先輩はざる一枚、若い二人は二枚づつ。
「さて、呑んでしまったし、残業は明日だ!」
「はい」
「じゃあ、今日は呑もう、八幡に行くぞ!」
まだ、お昼過ぎ。
「大丈夫、開いてる店がある、っていうか開けてもらうから」
そば前をネットで調べると、たいてい、
「長居はしないもの、軽くお酒を一、二本」と書いてあった。
創業明治中期の百三十年をゆうに超える老舗蕎麦屋「直利庵」
当時の人達は、日本酒を呑みつつ「何を話していたのだろう?」
時々食べたくなるかつ丼。
小粋なネギの緑。
かつに卵のトロトロが適度にかつに被る。
ご飯」と「かつ」と「卵」と「玉葱」の全てをまとめるタレ。
美味しい。
直利庵には、「かつ中華」もある。
そして、フノリ蕎麦が椀で突いてくる。
これが、出汁が効いて美味しい。
もっと欲しいと想うのだが、かつ丼と椀で、丁度良い按配なんだろう。
病に倒れ、今はもう一緒に呑めない先輩の顔は、少し傾いて苦笑しているに違いない。
<3月下旬 改装なったばかりの直利庵>