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盛岡市紺屋町
造り酒屋「菊の司」の蔵、向かいには、店で呑める酒屋、平興商店。
この街を歩けば、落ち着いた空気に足取りが自然にゆっくり。
ある日の夕方
窓の灯りは、琥珀色、辺りに溢れる焙煎の香り。
道行く人も目を止める。
その日の取材は、クラムボン。
「なるほど綺麗だ」と言って、
カメラマン、松本さんの手がカメラに伸びる。
＜盛岡食いしん爺の盛岡自慢より・撮影 松本伸(無断転載は禁止です)＞
６時半過ぎ、
しばらく窓から眺めていた二人は、
灯りと香りに惹かれるようにドアを引く。
突然の取材に驚く娘さん。
でも、笑顔で「うちでよろしければ、いいですよ」
「仕事に打ち込む姿、いいですね」
レンズ越しに言いながら彼は、シャッターを切る。
珈琲豆が、ひと回りごと、湧きあがる焙煎の香り。
ところで「クラムボン」という名
宮沢賢治の「やまなし」に出てくる。
「クラムボンがわらったよ」
クラムボンの意味は、諸説があるらしい。
それを極めなくても感じたままに。
カニたちが見上げたみなもに映る、
流れが生みだしては消える「泡たち」だと思っている。
マスターは、最近、念願の猫の本を出したほどの人。
きっと賢治が好きなのでは？
マスターの娘さん「焙煎の仕事が一番好きです」
回る焙煎機から目を離さない。
集中した眼差しを捉えるカメラ。
出来上がった写真には、どこか楽しそうな瞳が映っていた。
父がら子へ受け継がれるクラムボンのクラシカルな珈琲。
珈琲の味の表現は、よくフレーバーとか、なんとか・・・
でも、なんかピントこない。
自分が感じたのは「美味しい、深い味でありながら飽きない」
だから沢山のファンがいるのだろう。
カメラは、クラムボンの窓と仕事に没頭する娘さんを追う。
レンズを透した世界は、きっと爽やかで、ほのぼのとしているに違いない。
後は任せて、珈琲にプリンを楽しむ。
先日の今、人気の若手クリエーターの話
「まだまだ、あまり売れなくていいんです。ゆっくり歩んで５０代、６０代になったら売れればいい」
どうして？
「今は、自分の作品に対する批判に、ぶれない自信がないんです」
なるほど、
我が身を振り返れば、若い頃、自分への批判にはムキになっていた。
反論しては後で落ち込んだ。
今は、たいていは一旦、受け入れることができる。単に年取ったかも（笑）
誰かのひと言で傷つく頃には戻りたくない。
とにかく、長く続けることは難しい。
珈琲を味わい仕事を見ていると、クラムボンにヒントがあるような気がした。
さて、もう、あまり話を聴かなくても取材は十分。
クラムボンの空気と作り手の想いは写真が語ってくれるだろう。
案の定、編集ではどの写真も気に入って、とても迷うことになった。
突然訪ねた取材も終わった
その日のお薦め１００ｇを二袋。
一つを松本カメラマンに手渡すと。
「嬉しいなあ、帰ってからの楽しみ」
で、解散。
今度、来た時「クラムボン」の名前の話を聴くのがとても楽しみだ。
その夜、なんだか誰かと話したくなってスマホを手にした。
