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ゴールデンウイークの最終日、
東京から盛岡に帰省した人が、明日帰るという。
久し振りの盛岡、なに食べたい?と聞くとすぐさま、
「肉!」
どこで食べる?
「むら八に行きたい!」
てっきり焼肉かと思った。
上田のむら八本店へ。
ランチの時間なので、いつも混んでいるがうまい具合に席が空いた。
メニューを睨んで、
「ビーフシチューにする!」ときた。
「こってりとして見えるけれど、実はあっさりとして美味しい」と言うと、
下を向いたまま、黙々と食べている。
一切れ食べて見たかったが、あまりの勢いに遠慮した(笑)
いつか食べて見よう。
「むら八」は、盛岡の老舗洋食店。
昭和12年に生姜町(旧町名)で小さな店から始まり、
南大通りに移転し、その後上田に本店を置き、盛岡駅のフェザンにも店を出している。
フランス料理店も出している。
どの店も人気だ。
記憶を辿っても、母親にビーフシチュウを作ってもらったことがない。
鶏肉のクリームシチュウは覚えている。
なんかおかずにならなくて、食べ盛りながら、丼ぶり飯がすすまなかった記憶がある。
母は、トンカツをたまに作った。
肉は薄いが、卵の黄身がたっぷり。固くなったパンを砕いたころもの歯触りが好きだった。
父の給料日の直後、たまに弁当に入っていた。
嬉しくて、ご飯が足りなかった。
中学1年生の時、弁当を開ける前からワクワク。
台所でトンカツを揚げるのを見たのだ。
開けると刻んだ緑のキャベツの上にびっしりと載っていた。
食べているうちにキャベツが見えてくる。
あれ?
いつもの小さな魚の形で真っ赤な蓋の醤油がない。
仕方なくそのまま食べていると、机の横に人影。
「なにもつけないで食べるの?」と幼稚園、小学校と一緒の女子。
黙々と食べる手が一瞬、止まる。
「醤油で良かったら、あげようか?」
チラリと見上げると、ニコニコしている。
なんだか、むしゃくしゃして、キャベツを黙々と食べる。
その子は、隣の席に座って自分の弁当を開けた。
あの頃、同じ年なのに幼馴染の女子は、
自分より一歩も二歩も先を歩いているように想えて仕方がなかった。
さて、食いしん爺は、奮発して上ロースのトンカツにした。
まずは、得意の「ゴマすり」(笑)
「木曽桧」の焼き印の「桧」の字が少し消えかかっているのが、またいい。
ゴマの香りがして、
上ロースは、噛むと歯がすぅーっと入り、口の中で二つに割れた。
とても美味しい。
好きな脂身は甘い。
キャベツにドレッシングをたっぷりかけ、お代わりも。
帰りに、冷めても美味しいカツサンドをテイクアウト。
満足した人を助手席に乗せながら、食いしん爺にとって「母の味」って何だろうと想った。
なかなか想い浮かばない。
5月が誕生日の母は、まだ若いのにと惜しまれて逝ってしまった。
母の生きた時間をとうに追い越した。
不思議な感覚になる。
若くして止まった母の顔が浮かんでは、消えた。