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盛岡市紺屋町
中津川のすぐ東の通り。
擬宝珠のある上の橋よりの造り酒屋「菊の司」の見事な蔵、向かいには店で呑める酒屋、平興商店。
自然に足取りがゆっくりになる街だ。
去年の秋の夕暮れ
窓の灯りは、琥珀色、辺りに溢れる焙煎の香り。
道行く人も足が止まりそうになる。
その日は、クラムボンの取材。
「なるほど綺麗だ」
とカメラに手が伸びる松本さん。
<盛岡食いしん爺の盛岡自慢より・写真 松本伸(無断転載は禁止です)>
6時半は過ぎていた。
2人して、しばらく窓から眺めていたが、灯りと香りに惹かれる様にしてドアを引く。
突然の取材に驚く娘さん、でも笑顔でOK。
「仕事に打ち込む姿、いいですね」
彼は、レンズ越しに言う。
湧きあがる焙煎の香り。
マスターの娘さんは、焙煎の仕事が一番好きだという
父がら娘へと受け継がれるクラムボンの珈琲の味。
マスターは念願の猫の本を出した。
書店に並んだ自分の本を見て、きっとドキドキ。
娘さんも、初めて自分の挽いた豆で淹れた珈琲をお客さんの前に置いた時、
きっとドキドキしたのでは。
何でも初めての事は、不安と緊張が入り混じる。
その時の自分をしっかり、焼き付けておかなくては。
時々、想い出しながら。
クラムボンの撮影
カメラは、クラムボンの窓と仕事に没頭する娘さんを追いかける、レンズ越しの松本さんの優しい眼。
彼は、ここの雰囲気と作り手の想いを映し出してくれるだろう。
後は任せて、端っこで珈琲を飲む。
とても美味しい。
今日一緒に来れなかった人気の若手クリエーターの話を想い出した。
「まだまだ、あまり売れなくていいんです。ゆっくりと50代、60代になってから売れればいいなあ」
「どうして、そう想うの?」
「今、自分の作品に対する批判にぶれない自信がないんです」
「なるほどね」
振り返れば、若い頃、仕事や生き方への批判にすぐムキになっていた。
反論したものの、いつも後で落ち込んだ。
今は、たいていのことは一旦、自分に受け入れられる。
誰かのひと言やちょっとした表情で傷つく頃には戻りたくない。
自分だって悪気はなくても嫌な想いをさせたはず。
仕事を終え、美味しい珈琲とプリンでひと息
駐車場で解散。
その日のお薦め100gを2袋。ひとつを松本さんに手渡す。
「嬉しいなあ~」
と喜んでくれた。
仕事を終えて、車の中にひとり。
「クラムボン」という名は、宮沢賢治の「やまなし」に出でくる。
「クラムボンが笑ったよ」
諸説があるが、
勝手に、カニたちが見た水面に映る流れが作る泡たちのことだと想っている。
マスターは、賢治が好きなんだ。
後で、確かめてみよう。
そんなことを考え、しばらくぼぅ~っとしていたが、急に誰かに会いたくなった。
スマホを手にした。
後日、案の定、編集の作業で、どの写真も気に入り迷うことになった。