<音楽が出ます。音量に注意.>

 

 

先週の土曜日の陽も落ちた頃、盛岡から西へ走らせる。

太陽はすでに奥羽山脈に沈み、車の窓を開ければ冷たい風が頬を指す。

着いたのは、雫石の温泉葛根田川の玄武温泉。

まずは温泉。

冷えた身体が生き返る。

この温泉の話は後日、また。

 

雪景色を走る。

 

<今日は、世界最高峰、大粒の珈琲豆「パンドラ マカマラ」に逢いに行く>

 

 

温泉の温もりと共に、出がけに今年一番の良いこともあり、心もほこほこ。

国道46号線に出て、少し西へ走る雪原の中にコンビニの灯りが見えてくる。

そこを奥羽山脈の山々に向かって左折する。

踏切で停止。

 

 

ほう!「こまち」が秋田方面に向かって横切った。

踏切を越えた先の信号を右折。

後は、御明神と言う集落の中を道なりに。

しばらく行くと右手に、オレンジ色の小さな窓が見えてくる。 

小さなコンテナハウスの「オーロラcoffee roaster」

 

 

 

「こんにちは」

「いい豆が手に入りました」と淡々と話し出すマスター。

「今、最も手に入りにくい豆なんです。4年かかりました」

そこは声が少し大きくなった。

「早速、お願いします。どんな感じですか?」

「バカマラ種で、あのエルフェイント農園の「パンドラ バカマラと言います」

なかなか覚えられない。

珈琲通ではなく、ただの珈琲好きで、朝、昼、3時頃、夜&夜と欠かさない。

 

 

この珈琲は、今一番の高価格で貴重種だそうだ。

ゲイシャも素晴らしいが、淹れ始めると花の香りが小さな空間に広がった。

「マスター、これ美味しい」

「はい」と今日、初めて微笑んだ。

スペシャリティ珈琲の気取らぬ王様って感じで、未体験の味。

果実を越えた魅力的な花を飲むようで、とにかく美味しい。

 

マスター手造りのティラミスも頼んだ。

レモン汁入りで後味がすっきり。

 

 

ひと口、また一口。

好きな人と繋いだみたいに、指がカップに絡まって離れない。

いつも、なみなみにあったのに気がつくと残り少なくなっている。

今日こそ、ゆっくり。

 

 

心も和らいでくる。

 

昨年の3月のこと。

ここの椅子の家具店の女性が、オーロラcoffeeに送った椅子の様子を見に来た。

その頃、4席しかない椅子の一つのカバーが汚れてしまいマスターは、どうしたものかと思っていた。

マスターにとってペストのタイミングで来た彼女は、椅子を分解してザックに詰め込み担いで帰ると言う。

盛岡駅から田沢湖線に乗り、橋塲駅から歩いてやって来た。話を聴いて、帰りは盛岡に送ることにしたのだ。

彼女は、東日本大震災後、ボランティアとして遠野を拠点に大船渡や陸前高田に支援に来回った。その後も時々、沿岸を訪れていて、昨年も様子を見て東京へ帰る前に寄ったのだ。

 

<その時の写真>

 はじめは初対面と知らず、かなりの仲良しで、お邪魔したかと思った(笑)

 

「知り合いになったおばあちゃん達が元気で一安心」

「夜行バスに乗る前、びょんぴょん舎の盛岡冷麺を食べるのも楽しみ」

ボランティアをしていた間に、{盛岡さんさ踊り}にも出たそうで、

「普段、おとなしいと思っていた人達がいきなりパワフルに変貌して驚いた」

「役に立ったかどうかは別として、岩手の人が大好きです」

そして、年月が流れ、震災のことが関東では風化が進んでいると歯軋りしながら、

「忘れないこと」が大切だと話していた。

こんな人達が、被災地を支えてくれていた。
 

あれから、もうすぐ1年、震災から7年。

そんなことをゆっくり、この小さな空間で想う。

自分にとって、ここは不思議で大切な場所の一つになっている。

 

「マスター、この次はゲイシャを楽しみに来ます」

「はい、これからまた焙煎しますので、しばらくすれば飲めます」

 

「しばらくの間、味わえる楽しみ」を抱えて帰途についた。