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盛岡駅
列車に乗り込むわけじゃない、散歩。
この街で駅前が一番変わったかな、なんて思いながら歩き出す。
開運橋へ
綺麗なアーチを見上げながら渡る。
久し振りの快晴、空は蒼く高い。
まだ、高層マンションもなく、空の広かった頃。
駅に、何度か迎えに行った。
寒いのが苦手な人だっから、たいてい緑の頃。
社会人になって
あの頃は肩を並べ、何処までも歩き続けた街、盛岡。
下の橋を渡り、城跡の石垣を眺めながら川沿いを歩いた。
「川の緑がいいね、綺麗だ」
「鮭が遡上するんだよ、街の真ん中を流れてるのに」
と言うと、
「寒くなってから、ポロポロになって帰って来る」
ちょっとしかめた眉を隠す様に、
「空が広いのはいいね、気持ちいい」
と上を向く。
その夜、呑み明かした。
眼を擦りながら、
「朝市がある」と言うと、
「行ってみたい!」
昨夜からの着の身着のままで、朝市を巡った。
一晩ぐらい眠らなくても平気な頃。
何度か会って、1年半が過ぎた頃、東京で逢った。
その頃は携帯なんて無く手紙と家電が頼り。
日時を書いた一週間前の手紙が全て。
新宿駅で待合せ、やはり、その夜も呑み明かした。
「東京の冬は、まだいい、木枯らし吹く日は部屋に籠るの」
と笑う。
それから互いに仕事が暮らしの中心になって行った。
あの日が、最後に。
東京駅での涙の理由を確かめる勇気もなく、歩き始めた別の道。
語り合った夢は、置き去り。
呑む度、
日常に埋もれて行く自分をせせら笑うもう一つの眼。
狭い心の中で、
酔いつぶれるまで、二つの争いは終わらない。
青春?
昔と違い今は、もう歩き疲れて城跡で一休み。
「実はね・・・・」
と空に向かって呟いた。
君は学生時代を雪深い街で過ごしたよね。
実は、薄いコートであの街に行き、ポケットに受験票。
受けた学部は違い、試験の場所は離れていた。
もう笑い話の今、君は受かり、こっちは東京に行くしかなかった。
あの雪に埋もれそうな街で、一緒の企みは叶わなかった。
次は、君が追いかける様に東京に来て就職。
ところが僕は、故郷へ戻る。
時が流れ、いい年になり、ようやく追いかけ始めた夢。
いつか逢ったら、こんな自分を褒めてくれるかもと思っていた。
まさか、もう違う所に逝っていたとは・・・・
まあ、どうせ誰もが辿り着く処。
再開の時、
手を叩いて笑ってくれるよう、頑張ってみよう。
ずいぶん長い鬼ごっこ。
想い出に浸っているとお昼はとうに過ぎて
熱いもやしラーメンを食べに行くとしよう。
その昔、一緒に食べた「たかみ屋のもやしラーメン」
熱々で、シャキシャキのもやしとサクサクの筍、そして木耳の歯ごたえはプリプリと、
美味しい。
食べながらの笑顔の記憶は、一枚の写真。
美味しい物と一緒の想い出は色褪せない。
「あっさりの中華そばが好きだけど、たまにはコッテリもいいね」
と向き合って。
外へ出ると小雪が舞う
薄っすら額の汗に冷たい空気が心地良い。
また雪の季節が来て、あの街はもうすぐ雪に埋もれそうになる。
「寒いのは嫌だけれど、雪は大好き」
鉛色の空からの囁きは幻。
少しぼやけている街の輪郭の中を歩きながら、
空に向かって呟いた。
「もやしラーメン美味かった!でも、もう鬼ごっこは終わりなんだなあ」