秋の夜長、
7時も近かいと、とっぷりと暮れる。
珈琲豆を買いに、中津川の上の橋を渡る。
モノクロームの世界で浮かび上がる擬宝珠。
東に渡れば、大好きな古い街並み。
始めの信号を右に折れ、その先は紺屋町、肴町へと続く道。
少し歩くと、
琥珀色に輝く窓と珈琲の焙煎の香り。
「今日のお薦め、100グラムを二袋、挽いて下さい」
<クラムボン>
7時までは、珈琲も飲める。
20分あれば、
珈琲を飲みながら、のんびりできる。
師は父、
娘さんは、焙煎している時が一番好きだと言う。
勿論、集中。
機械で回る珈琲豆を見ている。
どこか楽しそう。
そうか、
これか? 琥珀色の輝きの源。
その日、飾ってあったホオズキ。
スマフォでキーをなぞると「鬼灯」と変換。
使者を導く提灯という話も。
沢山の種類があるが、食用から毒性を持つものまで。
昔、東京で浅草の「ホオズキ市」を見た事がある様な、無い様な。
ただ夏の朧げな記憶、沢山の出店が並ぶ光景。
スマフォで調べると花言葉は、「偽り」「ごまかし」
これを人に贈る時は、ちょっと注意が必要かなあ~
でも、黄緑と紅が綺麗だ。
「おや?」
カップとソーサーに珈琲豆が一粒ずつ。
珈琲を飲んでいる間も、数人が豆を取りに来た。
小さな宝石が散らばる様に、
個性的な喫茶店が盛岡には多い。
盛岡の人は珈琲好きで、喫茶店で誰かと語らう、あるいは一人ほっとする。
そんな場所が好きなんだと思う。
その一つ「クラムボン」
「お待たせしました。ありがとうございます」
その笑顔に、こっちも微笑んでしまう。
二つの袋を受け取って約束の場所へ急いでいるとスマフォが震える。
ある人との今夜の予定はキャンセル。
風邪をひいたというより、さては忘れていた様な?
ちょっと怪しい。
まあ、いいか、珈琲二袋は一人占め。
一袋ずつ開ければ、また新鮮な香り。
そう言えば、鬼灯の花言葉は「偽り」だったよね。