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 ホームスパンの蟻川工房を訪ねた

 

 今の代表、

 伊藤さんに話を聴きに行った。

 普通の住宅街の一角。

 「どうぞ」

 案内され、

 入れば中は、別世界。

 織機、糸、糸巻き車、ボビン・・・・・

 

 紫陽花、菫、向日葵、薔薇・・・・

 訪れた3人の溜息みたいな「わ~」

 

 まるで咲く花が糸になったよう、綺麗だ。

 

 

 

 糸を巻く道具も、

 紅を纏っている様に見えてくる。

 

 

ホントに楽しそうに、嬉しそうに語る人。

それが、一本の線に連なり、

面に拡がる。

生地が仕立てられ、

着る人の暮らしの中で、その人の一つになって行く。

人から人へ、何かが紡がれる。

 

 

ふわふわ、としか言い様がない、真っ赤な「ふわふわ」

軽くて、着心地いいに決まってる。

 

 

 

 羊の毛を

 洗って白くする。

 たしか油分があって大変だと聞いたことがある。

 工程を聴く度に、感心するばかり。

 糸を紡ぐのが最も熟練を必要するとのこと。

 同行したひとりは、

 ちょっと染色を学んだ人。

 盛り上がる二人の話を聞いてもよく分からない。

 

 ただ、一つ、分かった事、

 同じテンションを維持しないと、

 どの工程もよれたり歪んでしまったりすること。

 

 

 

 

 

この生地を追いかけて、テーラーされて、

仕立て上がり、それを着る人まで追いかけて見たくなる。

 

この、贅沢な蒼を着る人を

 

 

 

 

 例えば、ジャケットの生地を造るとすれば、

 1年で12着が、せいぜいだそうだ。

 

 「ホームスパンは、作品ではないのです。日常生活で使う物、

 使われるほどに身体に合い風合いも良くなっていきます」

 

 なるほど、

 頷いて感心するばかり。

 

 「どんな性格なんですか?」

 「子供の頃は、三日坊主でしたよ、何をやっても」

 よく笑う。

 

 「やはり、聞かせてもらいます。どうして始めたのですか?」

 染色に興味があり、高校を出て京都で学ぶ、

 ちょっとした縁で、蟻川工房に。

 「そしたら、楽しくて楽しくてしょうがなかった」

 この空間に居る事が今でも楽しいと言う。

 「ホームスパンの外に、お料理やいろんなことを先生から教えてもらい、

 それがまた楽しくて」

 

 ほんとに、

 輝く瞳は、真っすぐに見て来る。

 人を威圧して来ない、ほどよい目力、

 一緒に行ったカメラマンさん、シャッターが止まらない。

 心も吸い込まれそうだ。

 

 

 彼女の25年は、

 おとぎ話の様に過ぎたのかもしれない。

 

 「お会いしたのは、「いなだ珈琲舎」さんでしたよね」

 4月、半ばの事。

 あの時、マスターに紹介された。

 今にして想えば、

 カウンターで珈琲を美味しそうに呑む人を

 花越しに見ていたのをマスターが悟ったのかもしれない。

 

 丁寧に、見送られての帰り道、

 忙しい時代、

 だからこそ時間をかけ、

 愛情を注がれ、

 出来上がるのを待ってみたい。

 

 「ホームスパン」に飾り言葉は、いらないと想った。

 岩手の風土が育んだ宝物。

 人は、人からエネルギーをもらうもの。

 今日も、身体中に取り込んだ。

 

 ヘリンボーン編みの濃いグレーの

 似合う男になりたい。