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3月の上旬のある日
今日は予防接種だよ、病院に行かなきゃ、ルハン君。
「えっ、おでかけするの?」
一番お気に入りの窓、
降る雪を見て、
カラスの声に飛び乗る。
まだ寒い中、身体を屈めて歩く人を見て、
何を思うのだろう。
北国は、まだ、3月になったばかりで白と黒、モノトーンの世界。
外へ出ると、
「みゃあ~、みゃあ~」と不安げな、かぼそい声、
普段は、あまり鳴かないルハン君が鳴く。
珍しいこと。
でも、車に入れば、窓の外に夢中。
「窓からとちがって、まぶしいなあ」
走り出す。
身を乗り出す。
行き交う車が気になるの?
猫君達には、車はどう見えるのか、
高い建物は、森の樹々?
「あれがバスか? おっきいな、速いし手ごわそう」
もうすぐ着くよ。
王者の誇り
「今日も、おりこうでした。嫌がりもせず、じっとしてましたよ」
いつも褒められる。爪も切ってもらった。
固まるのは、怖いのかな?
「違うよ、王者は我慢するんだ。イヌワシさんなんか、いくら大怪我しても、痛い顔なんか、しないんだよ」
そういえば聞いた事がある。
弱みを見せない王者の誇り。
さあ、着いたよ。
「あれ、もう、終わりなの?」
お姉さんが来た
今日は、お客さんが来る。
「あ~、ロシアンブルーのお姉さん。ボクのこと、嫌いみたいなんだよなあ、ふ~」
「ルハン君!それ以上、近寄ったら、シャアざます!!」
爺のパソコンの椅子にどっかり、
「ここ、イイじゃない~、気にいったわ」
「食いしん爺さん、お久しぶり」
ほんと、久し振りだね、ようこそ。
「ボクは、そこに座ったことが無い、我慢してるのに、僕だって2才、もう立派な大人だよ、やる時は、やる!」
結局、好奇心で寄りたがるルハン君を尻目に、
ドアの隙間から、お姉さんの怖い「シャア」が何度か。
でも、前より、かなり友好的。
獣医さんは、
「無理は、ダメです。ゆっくり、互いの匂いに慣らしたり、ちょっとずつですね」
別の動物病院の人も、
「初めがダメだと厳しいですよ。別々にしてないと、本気で爪出しますよ」
まあ、ゆっくりとね、ルハン君。
「うん、そうだね」
「なんだか、今日は、疲れたなあ~」
そうだと思うよ。
今夜は、珍しく先に、ベッドに入った。
「遊びたいけど・・・・」
「やっぱり、今日は疲れたよ、眠い」
眠る姿
時折、耳の下を指で撫でる。
人の4倍の速さで人生を駆けて来る。どんどん追いついて来る。
このまま、止まってくれればいいものを、
一日一日を楽しもう。
「命」の大切さ、尊さ、素晴らしさを彼から教わっている。
そして、何より毎日、癒しをもらっている。
アメリカンショートヘアは、猫としての本能が強い種と聞いた。
もし、どこかの広大な森に放したら、
野性が目覚め、森の奥深くに駆けて行くかもしれないと時々、思う。
獲物を狙い、狙われる。危険な世界。
自分の力だけが頼りの命を賭けた真剣勝負の日々。
比較する意味もないのだろうが、
今の暮らしと、どっちに幸せがあるのだろう。
今日はお疲れ、ゆっくりお休み、ルハン君。