<音楽が出ます、音量に注意>
苦手な予約を思い切って
「11時から15時までになります。明後日ですね」
「1時過ぎるかもしれません」
「それは、もったいないですね、ゆっくりして欲しいのですが」
「大丈夫です」
コンビニの駐車場。
スマホを置きながら、時間の縛りに微かな悔いが尾を引く。
旅立ち
2日後、盛岡から、ほぼ50キロ、
花巻の鉛温泉、老舗旅館「藤三旅館」へ、
時間が気になり、少しせかされ気分の旅立ち。
道ずれは鼻唄と、
<予約のランチ>
ゆっくり起きて、盛岡を出たのは、昼近く。
さらに、途中で助手席に乗せ、鼻歌は消えた。
思えば、盛岡から一走り
一時間も走れば、雪景色。
鉛温泉の辺りは雪深い。
焦る心は、白い雪と青空に溶けていく。
急な下り坂の雪をお湯で溶かす。
歴史を物語る鉛温泉、藤三旅館
「凄いわね、この堂々として絵になるし、タイムスリップした感じ」
幾千の人を迎えてきたのか。
建物を仰いでいるとスマホが震えた。藤三旅館からだった。
今、玄関と答えて微笑む。少し焦った時間の流れは、もう止まっていた。
写真の建物だろうか?
1786年に旅館の主の一族が温泉に長屋を建てたのが、温泉旅館としての始まり。
当時は、歩いて来たのだろうか。温泉を楽しみに。
それが、盛岡から来ても1時間ほど。助手席は座るだけ。
白猿の湯は立湯
この建物を好む人達も多いのも、よく分かる。
まずは、温泉。
男女別の時間もあるが混浴の「白猿の湯」 なんと125センチの深さで立って入る。
2時から女性専用となり、助手席の人は、浴衣も着ずに小走り。
湯船の底からコンコンと温泉が湧き出す。
600年も前の「白猿伝説」
温泉主の先祖は、木こりで、ある日、一匹の白猿が桂の木の根元から湧き出す泉で手足の傷を癒しているのを見た。
それが、温泉だった。
<風呂の撮影NGだっのでロビーに飾っていた写真>
宿に着いて、小一時間、もう心身共に癒されている
川をまじかに眺める露天風呂も良い。
部屋に戻ると直ぐお膳が運ばれる。いい風呂だと言うと、
「あの、うちの湯は、滑らかで肌に纏わりつく様で、いつまでも温かいと言われます」
ここは、何とも落ち着くと続けた。
「この古さが良いから、このまま改装しないで欲しいとか」頷きも自然と深くなる。
「美味しそうね、量もポイント、丁度良さそうね」
食いしん爺の胃も騒ぐ。
花巻の白金豚。
お櫃によそってもらう。
いい感じ、早々とご飯のお代わり。
お造りは、ぷりぷり、山芋は、さくさく。
老舗旅館ならではの使い込んだ膳と椀も、いい味を醸し出す。
売店のお婆ちゃんと五つ玉のそろばん
ここは、自炊の湯治部、リゾート感のある高級宿、そして歴史に浸れる温泉旅館と幅広い。
湯治部の売店に行った。
誰もいない。
大粒の干しブドウを手に、辺りを見回す。はて、帳場かな?行こうとして、
「あらら、お待たせしてすいません」
千円札を渡すと、えっ、そろばん?
「わたしね、そろばんじゃないとだめなんです」
えっ~、しかも幻の五つ玉!
「お待たせして申し訳ありませんです。是非、また、来てくださいね」
普段着の心地良いおもてなし。また、来たくもなる。
はじいた!
藤三旅館を後に
いい湯、美味しい料理に満足。雪の中に出ても心身共にほっこり。
子どもの頃、家族旅行の温泉は、つまらなかった。父と母は、風呂に入ったり出たりで、ゴロゴロ。妹と卓球しても本気になれず、館内を探検しても、ひと巡りで飽きた。
逞しい浴衣の腕にすがり一つの塊て寄り添う女性。通りすがりに立ち止まり、顔を回して眺めていると母に激しく叱られた。
せめてもの楽しみは、ご飯だった。
気がつけば、自分も癒しの時間を求めている。
盛岡から、一時間ほどで別世界、
遥か、遠くに来た様な気がしてならない。
さて、日常に向かってエンジンSTART、
「次は、春の山菜を食べに来よう、予約して来ましょうよ」と助手席からの声に、
深く頷いた。