2月の水曜日、朝から雨、
お気に入りの路を歩く。
盛岡の旧町名で「葺出町」の昼下がり。
この路の青海波は雨がよく似合う。夕暮れには、灯りに照らされ、もっと綺麗に。
傘を片手に何度も行ったり来たり。
老舗の蕎麦屋、提灯の店、神社、カレー店にカフェ、八百屋、魚屋と一通り。そして南の端は、国道の向こうに肴町のアーケード「ホットライン」の入り口。
鯨の口の様に開いている。
盛岡では珍しい紅茶の店「しゅん」
今日は、「しゅん」で待ち合わせ。
ちょっと遅れてすいません。
「いえいえ」
と自然な微笑みに人柄が滲む。
スパイシーな紅茶を前に、二つの重要な相談。
だいたい話も終わり、
ケーキ、食べましょうか?
「いいですね~」と微笑む。
梅のジャムのケーキは、スパイシーな紅茶に良く合う。
階段を上がると踊り場で階段が左右に二つ。贅沢な構造。
記憶違いでなければ、昔、此処は喫茶店だった。もっと薄暗かったと思う。
だとすれば、2階に何度か来ている。
話が終わり、階段を降りながら蘇る古い記憶。
夕方、盛岡は「さんさ踊り」で街中が賑わい出す。珈琲を飲んでいると隣の席の二人の不自然に小さい話し声に雑誌を開きつつも耳が立つ。
しばらくして、突然、スカートを激しく揺らし階段を駆け降りる。急がないと彼女は、行き来する浴衣の波に消えてしまう。
でも男は、静かに階段を降りる。背中に安堵感が漂っている様に見えた。
男と女は、簡単で難しい。
あれほど一緒に居ると早く過ぎた時間。
一人が静かな暮らしを願い、片方が変化を求めだすと二人の時計を見る意味が変わる。
次に、彼女と会ったのは3日後。
晴れ。
青い空。春もそこまで。
今日は、お願いごとの返事。順調に話は纏まった。
ケーキ、食べましょうか?
「いいですね~ では、シフォンケーキにします」
この人は、これからどんな人生を歩むのか。
「きめ細かくて、このシフォンケーキもスパイシーですね~」
その言葉のとおり。
美味しい。
どんな人が現れ、彼女の人生に香辛料をふりそそぐのか?
少なくとも、階段を降りた二人の恋は、似合わない。と食いしん爺の勝手な思い込み。
スパイシーな話が出来る様な食いしん爺になりたいもの。
彼女は、普通に紅茶とシフォンケーキ。
爺は、紅茶もスパイシー。
階段を降りながら、やっぱり此処は喫茶店だったと思う。
いつか、店の人に聞いてみよう。
でも、「しゅん」では、別れを背負って階段を降りる深刻なシーンは似合わない。
ほっとする微笑みが似合う店だと思う。
今日も、此処で楽しいひと時。
居心地の良い、紅茶の店「しゅん」がお気に入りになりそうだ。
空は青く、空気も和らいでいる。
小春日和の昼下がり、泳ぐ雲を見ながら、のんびりと歩いて帰ろうか。