<音楽が出ます、音量に注意>
<今夜の案内人の誘い>
「ユキノヤに行ってみましょうよ!」
「ユキノヤ?」
二十数年振り、もっと前? 二度ほど行ったはず。
盛岡の中央郵便局の通りを真っすぐ、本町通りを突っ切って仁王小学校の手前にあるが、この辺りに滅多に用がない。
店のドアを開けて、いい年をして微かにドキドキ、ちょっとワクワク。
<メニューを開いて迷う?>
何にしよう?
ピラフとメンチカツ、ナポリタンそれからポークステーキ・・・「どれも食べてみたい」
「どうしたの?珍しいね、迷うなんて。早く、決めなさいよ」腹ペコの小学生でも咎める風。
「なんか、想い出があったりしてね~」と続く。
いつもと違う顔。気づかれた?
そうだ、あの頃に食べたのは、グラタンだ。メニューにあった想い出の欠片。冬季限定。
決めた、グラタン!
「すいません、今日、グランタン、終わっちゃいました」とすまなそうなマスター。
気を取り直し、またメニューを開く。
「いいじゃないか、迷う幸せ。これが、ホントの「開き直り」という奴」と呟く。
「つまんないね」
すべった。でも、本当に、あれもこれもと迷う楽しみ。
ようやく、決めた。「海老のピラフとメンチカツ」
メンチカツは、写真のとおり、外はサクサク。中、ふんわり。ずっと続いている味なのだろう。
優しい味のピラフ。
「海老もぷりぷり。「エビット・ピラフ」わかるかな?」
「ばかみたい!」
そのくせ、口に手を当て身体をそらして笑っている。
今度は、確実にうけた。
案内人は、昔ながらのナポリタン。
<グラタンに続いて、想い出す>
昔々、座ったのは。この端のテーブルだったと思う。
美味しいグラタンに、話も弾んで外へ出た。
雨から雪に。そうそう、傘を間違えられたんだ。一本の傘での送り道。あっという間に家のそばに着く。ふいに襲った突風に傘を持って行かれそうになり、思わず寄り添った。
一瞬、時間が止まる。
でも、もう家の前。
傘を差し出す人の睫毛に積もる雪。その傘を借りての帰り道も遠く感じない。
「しかし、美味しいもの食べてる時、ホントに呆れるほど幸せそうな顔する人だよね~、それに想い出が懐かしいからかな?ノスタルジックお爺ちゃん」
続けて、
「ところで、この間ちよっと話してた「昔々の八丈島」の続きを聞きたいの。面白そう」
だって。