<音楽が出ます。音量に注意>
とうに夕陽は、水平線に墜ち薄暗いのに、海風に向かう人。
季節は、分からない。
月灯りが、うっすら照らす横顔。
背中に届く髪が、海風に晒されて踊る。
黒い海を見つめる大きな瞳は、月の灯りを吸い込む。でも、何も灯らない。
その瞳が、こっちを見た。
すると、
灰色の砂の上を駆け、宙を舞う。両脚が綺麗な弧を描く。、
あっという間に傍にいて、
片手を差し出すから、手を伸ばすと笑い声を残し、遠くへ跳ねた。
曖昧な彼女との距離感。
隣で髪が触れそうかと思えば次の瞬間、遠くの渚でしゃがみ込む。
潮騒に負けず叫ぶ。
「おーい、楽しいか!うれしいか!」
ちらりと振り向いて笑う。
月灯りに光る波と戯れる人に、伝える事があったはず。
「何を?」「あれだよ、あれなんだ!」
想い出せない。
時間がない。きっと、もう逢えない。
焦りが募り、身体が硬直しだして熱い。
首筋、胸板、背中と生暖かい汗が流れる。
月が雲に消えかかる。
夢で逢えても伝えられなかった。でも、一体何を?
すると突如、現れた分厚いレンガの壁。視界の全てを遮り、海も月も見えない。
次の瞬間、また場所が変わった。
眩い森の中で汗を拭いては何度も着替えている。異様な汗の量でシャツが重い。
まだ、夢なのか?
男と女の間ほど、簡単で難しいものは無い。
始まりの愛おしさは、果てしなく深く、時間が足りない。
重なる皮膚も同化する。
1時間でも歩いて逢いに行く、その人も2時間過ぎても平気で待っていた。
「ごめん」
一言で急いで来た想いは伝わる。
「大丈夫」
優しく微笑んで首を横に振る。
しかし、もっと欲しかったはずの「時間という奴」は、とても恐ろしい。
季節が流れ流れて、
顔を合わせれば、言い争う。些細な事で傷つけ合い、果てしの無い暗闇。
向き合えば、互いに眉間の縦皺と拒絶の眼差し。
まだ、少し朦朧としながら首から胸の辺りの汗を拭き、着替えた。
熱は、峠を越えたようだ。
身体中の筋肉が、だいぶ削げ落ちてしまった。
「夢でも、僕達は失敗したのか」
「そうだ、学生時代に暮らした街を訪ねてみよう」
迷路のような路地に、錆びた想い出の欠片が落ちているかもしれない。
それは、切なくてほろ苦いのか、微かに甘く香るのか?
息苦しくて顔を覆うような事は、もう今の自分に、ありえない。
時間の魔力は、熱い想いを冷まし、痛々しい傷もセピア色に染めてしまう。
知らないうちに。
新宿から歩いて25分ほど。今でも辿り着けるか? いや、不思議と自信がある。
夢から醒めて煙草と珈琲。
それにしても、近頃は夢を見ない。
今年、初めての夢?

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