盛岡の町家街、鉈屋町界隈での用事が済むと8時を過ぎていた。

「さて、今夜はどうしよう?」

「ほら、造り酒屋さんでやってるレストランがあるでしょ、ここから意外と近いよ」

歩いて見れば、3、4分。

あさ開酒造の中にある「ステラモンテ」で遅めの夕飯。

 

ベトナム風生春巻きから。

綺麗でシャキシャキとして美味しい。

 

 

食事の始まりは、野菜から。シーザーサラダも緑たっぷり。

これだけ野菜を食べれば、いいわね。後はゆっくり食べましょ」

「はい」

向かいで笑う長い髪は、柔らかに揺れる。上機嫌だ。

「美味しい」を挟めば、素直になる。

以前は、血糖値の上昇を緩やかにするために義務的に食べてきた野菜。今は、大地が育む綺麗な緑に心が弾む。美味しいのだ。

 

 

無性に麻婆豆腐が食べたかった。それもちょい辛、四川風。

 

 

ご飯が欲しいとは、こういう時のこと。

 

 

そしてパスタ。

トマトソースにニンニクが効いて、これも美味しい。

ステラモンテのすぐ隣に、舌を噛みそうな名前のブリュワリーがある。中世にまで遡るベルギーの伝統的なホワイトビールを独自に開発した「ホワイト・ステラ」を醸造している。聞いただけでゴクリとくる。今日は、飲めない事情がある。残念。

この店は始め、和食が主だったが、タイ・ベトナムそれにイタリアンなどと日本酒の相性を探求しているそうだ。

 

 

 

地元産のソーセージ5種も頼んだ。向かいの上機嫌に付け込んで、思いつくまま食べたい物を並べる。たまには、いいだろう。

 

 

ステラモンテは、地元の食材を使い、美味しくしてくれる。勿論、地元の日本酒で。

 

 

 

食後の珈琲を飲みながら思う。

ステラモンテでは、日本酒に合う料理を和食に捕らわれず拡げている。確かに時代と共に人々の嗜好は変わる。マンション住まいでは、なかなか秋刀魚をまるごと焼けない。煙と生ごみだ。共働きの朝食は、パンだと手早く済む。忙しい時代に合うメニューになっていく。

スマフォも数年で当たり前のものになった。10年、30年と店を続けることは想像以上に大変なことで、ましてや二代、三代と続けてくことは、凄いことだと思う。

ゆっくりして店を出ると透き通った空気は案の定、冷たいが満腹で身体は温かい。

 

 

翌日、ある店のママから電話があった。

店を閉めるという。家族の介護などで、ついに盛岡を去ることにしたとのこと。これは顔を出さねば。ママには何かと世話になった。季節感溢れるお通しが好きだった。もう、40年にはなると思う。ここ、2、3年はご無沙汰だったが、店での思い出も30年近く遡る。連れだって行こうと友達に電話した。

「しかしね、電車でせいぜい40分の距離なのに、今年は2回しか会ってないね。電話も数回程度だよな~」

確かにそうだ。でも、夏に20年ぶりの友達を交えて数人で呑んだ時も、乾杯すれば、すぐに古いアルバムのセピアの世界で大笑い。隣でマイクを握る友の耳慣れた歌声をよそに、カウンターに頬杖ついてカラオケの動画を肴に昔話で盛り上がるのだ。

彼との電話の終わりに聞いてみた。

「まだ、ガラ系?」

「うん、そうだけど」

なんだか、ほっとした。