また、昼下がり。

盛岡から北へ走り、岩手町から東へ向かう。

北上高地の紅葉も終盤。すでに舞い落ちた葉を追いかけて枯葉が舞う。今日は、ちょっと遠出。標高千メートルを超える葛巻の袖山高原を目指す。

夏が長かった今年は、身体に唐突過ぎる北風。樹々は慌てて葉を落とす。樹に葉が残ると風や雪が絡まり、凍りつき、その重みで小枝を傷めると聞いた。

空は青く高い、高くなると蒼に近い。その日の雲は、緩く渦を巻く様に見えた。

 

 

頂上付近では、葉は殆ど地面に。もうすぐ雪。白い世界に包まれると違った美しさとなるが、その束の間の林は、やたら淋しい世界。

今年は、雪虫を見ていない。

 

 

麓はまだ、名残の紅、黄と賑わい綺麗だが、擦れ合う葉は風に揺れ、乾いた音をたてる。

 

 

風力発電の逞しい羽は、冷たい風に向かい堂々としている。超現代が千メートルの頂上で回っていても不思議に違和感が無い。まるで袖山高原に自生した大きな生物の様に見えた。

 

 

袖山高原の牛達の姿は、もう見当たらなかった。

 

 

レストハウスに到着。今月で今年の営業も終わり。

 

 

かなり遅いランチの始まり。

 

 

ジンギスカンと牛の焼肉。

 

 

 

野菜も美味しい。生のキャベツに焼肉を挟んで食べた。一層、美味しい。

 

 

3時過ぎだ。箸は忙しく動きまわり、無言の焼肉。美味しい。

骨付きラムが無かったのは残念。

 

 

満腹で身体も心も温もった。

 

落ち葉が車のフロントに、カサカサとした音を立てて舞い降りる。

 

 

北の紅葉は、高く青い空を背景に、一気に染まったかと思うと

もう、色褪せる。

 

 

山紅葉は、遅れてかえって紅、黄色が際立つ。もう散り際で、儚さが森を包んでいる。

 

 

 

だいぶ陽も傾いてきた。

 

 

 

山の森の紅葉も見納めになるだろう。

 

 

免許を取りたての頃、早池峰山麓の紅葉を訪ねた戻り道。

急な坂道、カーブが続く。ブレーキを頼りに狭い道を降りていた。しだいに陽が落ちる。ライトを照らしながら全身の神経をハンドルに集める。緊張を鼻歌やたばこで隠していた。

「人の話を聞いてないでしょ、ぜんぜん。結局、いつも聞く気がない。」

「そんなことは、ない!」 聞いてる場合じゃないのだ。

ついにブレーキの利きが甘くなった。その時、ようやく教習で習った事を思い出した。すぐ、道端に止め、ブレーキの熱を冷ます。

エンジンブレーキを使うのだ。道筋が見え、ホッとして背もたれを低くした。

 

しばらくしてブレーキの利きを念入りに確かめて走り出した。すぐにカーブも緩やかになり平坦な道になった。ライトもだいぶ先を照らす。ほっとした途端。

「わかったわ。もういい!」

こんな道は初めてで自分の運転の未熟さを釈明した。しかし、火のついた怒りには、正直な話も、なおさら醜い言い訳になる。火に油。

不安を感じて直ぐに打ち明ければ、局面を二人で乗り切り、楽しい出来事になる事もひたすら隠し続けるうちに亀裂は深く、大きくなることがある。一度、脇道に逸れてしまうと戻り道を失う。まだ、人生も未熟だった。

その夜、かまわず加速度をつけて迷路を走り出した。

 

I was Iike you.

No I just want you to slow  down.

 

見栄を張った青年の少し危険なドライブ。ほっとして力が抜けた男と暗がりで何かを待っていたかもしれない助手席の黒髪。二人の身体の距離は、肘が触れるほどなのに、彼女の心は窓の外の暗闇に飛び出した。

夜の森は、ちょっとした風でも乾いた音を立てる。静まり返っていても人の力が無力な世界を感じてしまう。

あれは、こんな森の中の夕暮れだった。

 

 

 

切なく語りかける様な乾いた葉音が耳に残る。

「カサカサ」

風も冷たく晩秋の候