その日の夕刻。

空は低く、灰色。時折、ポツリ、ポツリと雨粒が落ちてくる。

日没に閉まる店、「mi cafe」を目指して階段を急いだ。

「あと少し、30分ほどで閉めますが・・・」

「大丈夫です。ありがとうございます。」

日没の風景を見たかったことも今日来た理由の一つだが、何といっても採れたての林檎と梨が目当てだ。

まずは、「アップルケーキ」を味わい貴重な時間を楽しむ。ちょっと幸福になる。

 

 

 

盛岡のこの丘で採れた林檎がたっぷりとスライスされて挟み込んである。美味しい!

「なるべく、素材の味をそのままに、楽しんで味わってみて」と、育む人のメッセージが詰まっている。

この店は、農業の6次産業化の理想的な形だと思う。成功には、多くの楽しみな手間をかけ、自らの手で素材の味を一番に作る。訪ねる人は、この丘を見ながら、美味しい時間に浸る。オーナーは、食べる人達の笑顔を目の当たりにする。当然、頑張る。

自然に流れる意欲の循環。

 

 

陽が沈む。店を閉める時間だ。

 

 

今日は、最後の客なので、誰もいない。カフェの中を撮るチャンス。

 

 

 

遠くに夕暮れの街が見え、その背景には岩手山。街の灯りがともり出すのを眺めながら林檎のケーキと珈琲で過ごす。30分でも十分に満足。

 

 

テラスも気持ちいい。

カウンターに座り一人で景色を眺めるのもいい。

「ミ カフェ」ならではの贅沢!

 

 

 

 

いよいよ、斜面で陽射しを浴びた果実の収穫。

 

 

「急に寒くなり、寒暖の差が激しくなってくると、一気に色づきます。」

次々と日本列島を襲う台風に天候を憂いたりもするものの、太陽の陽射しや寒暖の差などで林檎が美味しく育つ。だから天候に感謝しているというオーナー夫婦の話が印象的だった。

 

採れたての林檎。

一つ一つが、丁寧に育まれて綺麗な林檎になる。

 

 

瑞々しい梨。

この梨も食いしん爺の、初秋の楽しみ一つ。美味しいのだ。

 

 

いつも花に囲まれている 「mi cafe ミ カフェ」

 

 

コスモスが綺麗だ。

 

 

 

この木と土と草の階段を今年も何度も登っている。一段、登るごとに変わる光景。

 

 

夕景も味わった帰り道、林檎が2個落ちていた。

数年前の秋のここでの話を思い出した。

「高校に入った年にね、通学の路にね、小さな林檎畑があったのよ。段々と育つ林檎は、紅く美味しそうになっていくわけ。そうしたら、ある日、大きくなった林檎が、道端にコロッと落ちてたの。あたしは、立ち止まったの。そしてね、気がついたら、両手で抱えてた。」

それで?

「気がついたら、カバンに入れて走ってた。」

「自分の部屋に駆け込んで、ドキドキしたわ。机に置いて美味しそう。と思ったけど、「盗んだな!」ともう一人の自分が咎めるのよ。」

それで、食べた、美味しかった?(笑)

「また、走って元の位置に置いてきちゃった。」

「凄く疲れちゃったの。その時の事をはっきり覚えてるの。林檎の重さ、美味しそうな紅い色。それから、胸のドキドキもね。」

身振り手振りを交えて話す人の頬が、ほんのり紅かい。よくありそうな話しなのだが、とても清々しく思えて微笑んだことを爺は、鮮明に覚えている。

 

 

           オーナー夫婦が話していたとおり、林檎は紅く大きくなっていた。

 

 

               曇り空の夕暮れに映え紅い林檎が一層、綺麗だ。

 

 

 

一日ごとに陽は、早く沈む。夕暮れがちょっと寂しく感じるのは、年をとったのだろうか。

落ちた林檎に手を振って、さて、帰るとしましょう。