奥羽山脈の八幡平から東に山並みが続づく前森山や西森、安比岳の麓に広がる安比高原。アッピという名前からしてアイヌ由来の地名だろう。ブナや白樺の生い茂る広大で豊かな森で、彼らは、どんな日常を生きていたのか?みちのくは「陸奥」と書く。そこには、縄文の頃から豊かな森の文化があったと聞く。
安比から少し北の小さな町で、父が6、7年ほど働いていた事がある。その頃、学生だった爺は、友人達を引き連れ、父の社宅をベースに、あちこちのスキー場を駆け巡った。爺にとって安比はスキーの場所だ。広いゲレンデのコースは、殆ど頭に入っている。
実家に、この地のブナや白樺の林を描いたモノトーンの絵がある。父は、たまに気に入った処を描いていた。それに庭には、白樺の苗が植えられ大きく育った。
赴任先は、父にとっては、望んだ所ではなく、サラリーマンとして致命傷を負ったが、連日の残業からは解放された。虚しい想いからの始まりだったが、時間を経て楽しい風景に変わったのだと思う。秋の栗やキノコ、春は山菜に渓流釣り。着替える場所も無い様な秘湯があるとも聞いた。土地の人の打った蕎麦で年を越した事もある。素朴で美味しい蕎麦だった。
母は、60歳で逝き、父は、その年から10年を超える長い間、癌と闘う人生を辿った。でも考えれば、そのことは、家族の密度を濃くした。元気な頃には、せいぜい季節に一度ほどが、月に何度も会いに行き、入院時には、毎日の様に母の事など昔話しに花が咲いた。
先日、遠野の道の駅「風の丘」で偶然、見つけた安比高原の「白樺の樹液」
木が傷つかない様に丁寧に少しずつ集めた樹液。飲んでみると口あたりが滑らかで柔らかい。フィンランドでは若返りの樹液として愛飲され、デトックス作用や血液をさらさらにする効果もあるらしい。ミネラル、キシリトールを含み美肌効果もある。
それに「白樺の樹液」と聞くだけで薄緑の葉をまとった樹々が目に浮かぷ。
なんとも「まろやか」で美味しい。
毎日飲んで食いしん爺もアンチエイジングを始めようか?
白樺の樹液には、ミネラルと想い出が濃密に詰まっていた。今日も美味しい一日だった。
この味を父は、知っていたのだろか?
もう今夜は、眠るとしよう。
林の中をゆっくり歩く、父の姿を夢で見るかもしれない。