近頃、一人に飽きると、ここ、「いなだ珈琲舎」に来る。とカッコつけたが、人と会う場所にも利用させてもらっている。テーブル席は、一つしかないので早めに行き、珈琲とマスターとの会話を楽しむ。話は台風の事から、この古い街の話や、彼の人生観などと幅広い。さて今日は、何の話になるのか。

淹れたてのマンデリンを楽しんでいると電話がかかって来た。待ち合わせの時間が少し遅れることになった。ゆっくりの時間が延びるだけなので一向に構わない。

電話を終えて戻ると、珈琲カップに洒落た木製の蓋が載っている。

 

 

「あれ、これは、ひょっとして・・」

「はい、少しでも冷めないようにと思って。」

「考えてるなあ、この心遣いが嬉しいなあ~」

「はい、常に考えてます。」

食いしん爺は、こういう優しさや気遣いに弱い。歳のせいかな?

 

 

この樽は、2つあってマスターの大切なものだ。

もし、いつか店に行ったなら、何気なく聞いてみて下さい。

 

 

 

たった一つのテーブル席にも花が飾ってある。カウンターには、花瓶に豪華に活け、テーブル席の方は一輪か二輪挿し。この間は淡いピンクのバラみたいな花。名前を聞いたが、すぐ花の名前を忘れてしまう。

 

<いつもの感じ>

 

スッキリした珈琲のカップにまるでお月様の様にライトが落ちた。

 

 

「喫茶店は、開業するのが簡単なのです。極端な話ですが珈琲好きの人が自宅の一部を少し改修すれば、開業できます。」

なるほど。

「わたしも、そのうち開店しようかな?」

「どうぞ、商売敵で戦いましょう!」

2人で笑う。

その日はテーブル席に藍色と白を基調に先が淡いピンクのトルコキキョウが数本。綺麗に咲いて人目を引く。その隣に写真が置いてあった。

「マスター、アイスクリームを始めたの?」

「はい、試しにいかがですか?」

彼の演出にのった。ハズレは無いから。

 

 

見るからに、美味しそうなアイスクリームがテーブルに置かれた。彼は、「どうぞ」とだけしか言わなかった。

「また、自信作だな・・・」

 

 

やはり、美味しい! ほどよい甘さ。スプーンに粘りつく様なねっとりとして、かつ滑らかな口あたりのアイスクリームが大好きなのだ。そもそも爺の冷蔵庫には、ピノが常駐。(笑)

 

 

コーヒーのシロップをかけて食べる。季節ごと新しい物が登場する。

 

 

先日、マスターが珈琲を淹れていた時のこと、

「会計、お願いします。」

と別の、お客さんから声がかかった。

「すいません、ちょっとだけお待ちください。いま淹れ終りますので。」

お願いしながら、彼の真剣な眼差しは、ドリップの中に注ぐお湯と挽いた珈琲の泡から一瞬たりとも眼を放さなかった。

 

 

先月、花巻の珈琲好きの知人から、

「盛岡で珈琲飲むんだったら、盛岡劇場向かいの・・・なんとかという喫茶店が美味しいって聞いたんだけど、行ったことあります?」

と聞かれた。今度、珈琲が冷めない様に蓋をしておく店だと伝えておこう。「いなだ珈琲舎」の名前は、もう随分知れ渡っている。しかし、マスターの進化をもっと見ていたい。彼の熱い想いを冷まさない蓋は、お客さんかもしれない。

 

「ごめんなさいね、予定を遅らせてしまって。」と言いながら和服姿の人が入って来た。今日は、アイスクリームをお薦めしてみよう。汚れない様に膝に掛ける布も用意している。そういう店だから、盛岡食いしん爺が大切な人と逢う時のカフェの「いなだ珈琲舎」なのです。

しかし、近頃の爺は、何かに飢えているのかもしれない。