夏も終わり頃、7時過ぎの東北新幹線に乗った。

2時間ちょっと。もう東京駅のホームに立っていた。新幹線の改札を出ると左右に人の流れが別れる。迷わず真っすぐ歩く。いつもの様に丸い大きな柱を背にしているはずだ。居た。肩を寄せあうと500キロの距離と数カ月の逢えない時間は消えた。

地下鉄丸の内線で池袋へ。地上に出ると懐かしい顔で池袋駅の東口を見渡した。

「ほら、このデパートは、見渡す限り長いのさ。」

「どうせ、なにか想い出があるんでしょ。」「えっ、どうして?」と言う前に、続いた。

「だって、顔に描いてある。」 顎を上げて笑う。

まず、珈琲だ。超高層ビルの林立する東京の、あちこちにある時間の止まっている様なカフェで一息。北口の「伯爵」で日常から解放される。たぶん、この夏、最後のアイスコーヒーを挟んで向き合った。

 

 

 

「元気そうね、良かったわ。ほんとは、まだ、ドキドキしてるの。」

うつむき加減で頷くと、

「ちゃんと眼を見て言いなさい。そうすれば、騙されてあげる。」

 

 

アイス珈琲の氷をかき混ぜながら、日常を脱ぎ捨てる。

「さて、今日は、どうしようか?」

「プラネタリウムに行きたい。サンシャインビルにあるでしょ。」

もう、彼女の指は夜に触れた。

 

 

 

星空の下、頬を小さな星が輝き流れるのを見た。

戻れるとしても、20代には戻りたくはない。他人の、たった一言に眠れない夜を持てあますのは御免だ。彼女の頬を伝う一筋の光にも慌てない。やまない時は肩を引寄せ、一緒に引き受ければいい。

曇り空でも、外に出ると眩しかった。池袋から大塚に歩く。

 

 

「この電車、どこまで行くんだったかなあ?」

 

 

大正モダン、昭和レトロと超高層ビル群が隣り合わせの東京。でも、違和感が無い。東京は不思議な街だ。

 

 

駅があれば、必ず伸びる路地。地方都市で無くした小さな魚屋、肉屋、八百屋みんな昼も夜も活き活きとしている。

「なんか、地方の都市は、どこも綺麗な街なのね。でも東京は、人間みたいに色々な顔があって一つに納まってる。そんな感じがする。一人一人は孤独なのに、凄く人間臭い街。」

 

 

彼女が探していたのは、洋食「GOTOO」 行列のできる洋食屋さんとして評判の店。東京の「洋食」が二人とも好きだ。忙しい人達のランチタイムを外したので少し席が空き始めていた。

美味しそうなトンカツがきた。

 

 

夢中で食べていると視線を感じた。隣を向くと、フォークを片手に微笑んでいる。

「ガツガツ、食べたりもするのね。」

 

 

 

ハンバーグが気になっていると大きめの一切れが口の前にきた。

もう十年も二人で暮している様な錯覚に陥る、この時がいい。ハンバーグも美味しい。

 

 

愉しい時間は、新幹線より速い。

東京駅に戻ると雨。

どうして別れ際にいつも雨なのだろう。それも傘がいる、いらないと迷う小雨。

 

 

 

表に、昔の建物。中は吹き抜けの眩い超現代空間。つくづく東京。

しだいに、今の時間に戻り始める。東京駅で別れた。

「じゃあ、またね」と手を振ると、

「またねが、長い人よね。いつでもいいのよ。あなたしだいなのよ、私は。」

彼女は、人の流れに呑み込まれる寸前に振り向いた。

 

 

仙台の手前で目覚めた。

今日、訪れたビルで見た稲から採れるご飯は、どんな味がするのだろう。

 

 

冷えたカップの珈琲を飲んでぼんやりしていると、車窓に、盛岡の街の灯が見えだしている。せめて後少しだけ、夢の東京に戻りたい。しかし、車内に例のメロディが流れた。

しかし、今日の新幹線は、速すぎる。

盛岡の夜風は、冷たく日常に戻る。明日は、朝から忙しい。