半分、隠居生活をしている様な、それでも毎日何かと忙しい人がいる。でも、僕がとてもお世話になっている人なのだ。

6月も半ばになりかけた、ある日の昼下がり、その方を訪ねると、

「ちょっとこれを見て」

とお茶より早くテーブルの上にガラス箱を置く。

 

なんと、羽が青い銀色とでも言うのだろうか、美しく輝いている。

 

 

「これはね、叔父からもらったんですよ。それで、たまたま、蝶を研究している方とある飲み会に来ると言うので、明日、出かけて行くことにしたんです。」

「へぇ~、この美しい蝶の輝きの正体が分かるわけですね。」

 

 

本当にガラスのケースの中で見る位置によって輝き方が違ってくる。

「これは、かなり珍しい貴重な蝶ではないですかね。僕は、よく蝶のことは知らないですが」

と感想を述べた。

「でしょ、もうだいぶ以前に亡くなりましたが、叔父は、かなりのコレクションがあって息子が後を受け継いで整理していると聞いてます。」

 

 

 

「だいたいにして、この箱がまた、ミステリーっぽい」

「でしょ、いかにも珍しいんじゃないかな。ボリビア産って書いてあるんですよ。」

 

そう言えば、ちょっと話は先月に遡る。

訪ねると切手や古銭を家の中から探し出しては整理しているのである。

先月の下旬に東京から色々な骨董的な物を扱う大手の店の人が盛岡界隈に出張鑑定し、購入に来ると言う話が合った。忙しい日程をやりくりして、この方の処に寄ってくれることになったとのこと。そこで僕にも、色々と父から受け継いだものや自分で集めたものがあると話すと一緒に見てもらおうということになった。

翌日から、毎日の様に二人で古銭や切手を分厚いカタログと照合しては、歓声をあげては異様に盛り上がっていたのだ。

「月に雁」じゃないですか!凄い、一枚でも万単位ですよ!」

と歓声をあげた。

「あなたの、この十円札、百枚ぐらいあるじゃないですか! ほら、兌換券まで貼ってあるし、ほら、ここ、このページ」

と言って写真と価格を指差す。

「一枚、安く見積もっても500円以上は固い」

僕も頷き、二人で笑っていた。もう、大宴会の予定を合わせたりしていた。

 

 

妙に、貴重な雰囲気と何かを秘めた様な木の箱。

また、この古ぼけた感じが、いい具合に歴史を感じさせ。

 

 

 

6月の早々に、東京から鑑定にやって来た。

暫挨拶もそこそこにテーブルに広げられた数々の切手や古銭を見てもらうことにした。

なにやら、真剣な眼差しで白い手袋をして視ている。

2人の期待は、頂点に。

ものの、5分ぐらいして、二人の方を交互に見て、切手の価格と古銭の評価について語り出した。

結局、プレミアがつくものが、僅か数点でそれも、何百円。

気の毒そうな顔で僕のお札の束についても、

「今回は、引き取れません。色々とまとめて三千円~五千円とかでしたら・・・・」

2人は、顔を見合わせて口数が急に少なくなった。

数々の切手と古銭ブームも去り、東日本大震災以降はさらに低調だということだ。

結局、数百点以上を売り払ってもたいした額ではない。

時間になって、ある程度を売り、後は、記念に持っておくことにした。

 

 

 

6月の半ばになって、訪れると当然、蝶の研究家と合った話になる。

 

この蝶をくれた叔父さんは、その会った研究家も知り合いで、蝶の図鑑を編集したりしていたたいそうな収集・研究家だったということが分かったそうだ。

蝶自体は、南米に光り輝く種類があり、特別に貴重なものと言うわけではないらしいが、この辺では持っている人も少ないので大切にして欲しいと言われ、あらためて箱をきれいにしたということだった。

「いやね、叔父の話を聞いて楽しい晩でしたよ」

と懐かしさと叔父さんを語りながら誇らしげだ。

 

なるほど、物の価値は、持っている人、自信がどう考えるかなのだと考えさせられた。そのものが金銭に変えられない想い出や物語に繋がるところに価値がある。

 

結局、その方の事務所で二人だけで互いに食べ物を持ち寄り、反省会をすることになった。