5月のよく晴れた暑い日の午後、盛岡の八幡の通りを歩いていると「陽月」さんが開いて
いた。すぐ店に入る。近頃はカーテンが閉まっている日が多いのと気になる噂を聞いたの
で確かめるチャンスだ。
店に入ると、
「まず、これ食べてみて」と醤油団子を一串。美味しい。団子を口に入れたまま「ぶちょう
ほうまんじゅう」大小各一パックと「お茶もち」を頼んだ。
「跡継ぎは、いるんですか?」
「いや、自分で終わりだな」
いよいよ噂を確かめる。
「ところで、ロールケーキを造ることがあるって聞いたんですが?」
「あぁ、クリスマスの頃にね。もともとは、洋菓子から勉強したから」
噂は本当だった。でも、そのロールケーキを手に入れるのはさぞかし難しいのだろう。
そうこうしているうちに、お客さんが次々と開いているのを見つけて入って来た。
まだ、色々と聞いてみたいことはあったが店を後にした。
初めて食べたのは、数年前の事だ。
そもそも「陽月」という名前からして料理屋さんだと勝手に思い込んでいたのとさほど「お
茶もち」などが好きでではなかった。団子の類は、円柱を切った様な丸い団子にタップリと
真っ黒なゴマや小豆のアンコとしっかり絡まっているのが好きだった。要は、伊達藩系の
モチ系の団子。
高校時代に数人でお金を出し、団子を食べることになった。お金を出し、用事を済まして
から友達の家に行くと、すでにみんな食べ終わり小さなテーブルに紙袋が二つあった。一
つには食べ終わった残骸の割り箸。一つが高校生だった爺の二串だ。
袋から出して爺は、皆を睨んで言った。
「だれだ! オレの団子をつぶしたのは! まったく。食べ物にいたずらして」と怒った
が、みんなはキョトンとした顔だ。
伊達藩出身の爺には、誰かが、いたずらして丸く柔らかい団子を潰したものだと爺は、
思ったのだ。
その時の団子とは、お茶もちのことであり、始めから平たくなっているものだとは知らな
かったのだ。
笑い話になったが、その時、食べてもあまり美味しいと思わなかった。
たいぶ前から、盛岡のグルメ「ぶちょうほうまんじゅう」の名は知っていた。米の粉でふっ
くら仕上げてある。今では、爺の美味しいものの一つに入っている。
これが、お茶もち。陽月さんのは厚く盛り上がっていて美味しい。
数年前に、「ぶちょうほうまんじゅう」をある人が買ってきた。
「休憩しておやつにしましょ」といいながらも、眼を合わせない。
初めて見て、お茶もちと同類のものだと思っていたので期待せず一口で食べた。口の
中で思いもかけない濃密な蜜が飛び出てきた。
「おいしいなあ」と言って2個目も口に入れた。また、口の中で甘い蜜が一気に出てくる。
突然、奇声があがり、差し入れた人の真っ白なスカートに黒蜜が2つ。慌ててウェットティ
シュで叩いたが、せいぜい薄くなるだけだった。
そうか、爺は思った。
爺の慌てふためく姿を見るために買ってきたものの自分が不調法してしまったのだ。
手を叩いて大笑いだ。
「なんで、あたしがこうなるのかな~」
「バカみたい、でもちょっと笑いすぎじゃないの。せっかく差し入れしたのにヒドイね~」
だんだんと話しているうちに怒りだし、悪いのは爺だと言う雰囲気になったきた。
「だいたいさ・・・・・」
「・・・・・・」
「なんでだまっているんですか?」
「・・・・・・・・・」
黙っているのも気に入らなくなる。そしてご機嫌悪いまま、戻って行った。
こんな時、答えても黙っていても結局似た結末になる。
買うと、一枚入れてくれる「ぶちょうほうまんじゅう物語」
場所は、八幡の通をまっすぐ盛岡八幡宮を目指します。
真ん中辺りに番屋が空を背景にして見下ろしています。
最近、蘇った「盛岡劇場の看板」があります。
もう少しです。
十字路があり、大きな狸が出んと構えています。
もうすぐです。
陽月さんの「ぶちょうほうまんじゅう物語」では、
「陽月ぶちょうほう ほん舗の登録銘菓で「おらほにしかながんす(わたしのところにしかありません)」
米の粉を一生懸命にこねて、中に黒蜜を入れクルミをのせている。「蜜っこがブチュっとはねで、不調法するときもありやんすが、おゆるしぇってくなさんせ。ぶちょうほうまんじゅうといいやんすからなっす。
終わりに、「今日中に食べてくなんせ」とあります。