この季節、盛岡から、ちょっと車を走らせるだけで目の前にパステルカラーの世界が
広がる。
西へ。ほんの30分ほどで雫石。
山の蒼と空の青。そしてレモンイエローが一面に広がる。
3、4時間もあれば十。春を五感で愉しめる。
岩手山麓の雫石に春は、少し遅れてやってくる。
例年より雪も少なかったことに加えて今年は暖かい。山の雪解も早い。
その分、一気に春が来た。
何人か、この青空のチャンスに撮影に来ていた。
「ちょっと顔は、写しませんから撮っている姿をいいですか?」
「カメラ好きはね、たいがい撮られるのは、嫌がる。でも顔無しだったらいいよ」
と笑って言ってくれた。
「今日は、いいね。去年は、道路の反対側一面だったなあ」
菜の花は、二、三年で植える場所を変えると聞いたことがある。
どこでだったかな?
今日は、絶好の撮影日和。目の前にして三脚を持つ手にも力が入る。
本当に、菜の花と青空は、良く似合う。
そして岩手山とも良く似合う。
毎年、菜の花を見て思う。
子供の頃、春になると菜の花畑で遊んだ。
菜の花の畑に分け入って、しゃがむ。かくれんぼだ。
その時に、菜の花を透かして見た青空が忘れられない。
下から仰ぎ見ると、
ブルーとレモンイエローに、茎の優しく綺麗な薄緑が加わる。
もっと菜の花は高く生えていたと思うのだが、背が小さかったからなのか、種類に
よって違うのかは分からない。
菜の花にも、背の高いものもあれば、薄緑の茎の中で咲いている花もある。
でも、ちゃんと春の陽射し受け、輝いていた。
それから、あちこちの道端にも沢山の菜の花が咲いている。
種類が違うように見える。土壌のせいなのか、小さく密度が薄い。
でも、つい車を止めてしゃがみこむ。綺麗だ。
もっと最近の事を思い出した。
何年か前、雫石の菜の花で作った「菜の雫」を取材に来たことがあった。
菜の花の傍でしゃがみこんでいる。長く細い髪が揺れていた。
「このアングルが欲しいんでしょ? 例の子供の頃の思い出シリーズでしょ」
と笑いながら振り向いた。
その振り向いた顔は、自信ありげだった。
「ひまわりもいいよ。一面のひまわり。見ていると元気が出るんだなぁ~」
と続けた。
その夏、少し元気をもらった。
急に羽音が近づいて来た。
まるまるとした蜂が飛んできた。
黄色い花を背景に、虎の子模様の胴体が映える。
菜の花を凝縮した琥珀色の「菜の雫」
大切に有機栽培で育てられた菜種は、一つ一つの黒い種は、とても丁寧に手間を
かけられて澄んだ琥珀色になる。
育てる人、造る人など、携わる人の心が一滴一滴の輝きを造り出す。
雫石の「かし和の郷」で造られている。
瓶を開けると活き活きとした香。
人の身体で合成できないリノール酸など、いっぱい詰まっている。
さて、菜の花畑から鶯宿温泉に向かう。
途中の新緑。
おや・・?
栗のイガが、一個だけ枝に残っていた。
田んぼには、水がはら田植えもそろそろ。
日本の原風景だ。
そめいよしのが終わると、若葉の季節は直ぐ。
これから、緑が爆発的に萌える。新芽の薄緑は迫力のある濃い緑に変わっていく。
丁度、今の時期が好きだ。
盛岡の奥座敷。鶯宿温泉に着く。
豊富な湯量で源泉かけ流し。
日本旅館の伝統を大切に「宿の原点」を目指しているとのこと。
昔、盛岡から鶯宿温泉には忘年会でもあまり来た記憶がない。
手前の繋温泉が殆どだった。
いや、しかし「長栄館」のお風呂は、とても心地良い。
露天風呂に入る。
心身共に癒される。
何だろう。この心地良さは。
今度は、泊まりだな~
本当に偶然。
いつの間にか、目隠しの植栽からツツジの花びらが露天風呂に・・・・
「はあ~気持ちいい~」と、つい声が出る。(笑)
さて、いい気持ちのまま、
「カフェスペース 梅の木」へ。
珈琲とオリジナルの「アップルパイ」を頼んだ。
「わぁ~ これは、美味しそうだ!」
と素直に声が出た。
「県産の林檎です。砂糖をいっさい使わず作ってます」
と運んできた女性は、いい笑顔で話す。
なるほど! 林檎がサクサクして美味しい!
林檎の甘味だけなのでどんどん口に入る。
気持ちの良い湯上がりに、美味しい土地のもの。
ゆっくりと贅沢な半日の幸福時間。
どこか遠くに出かけている気がする。
大満足の帰り道。
エンジンをかけると
「おや・・?」
フロントガラスに・・・・・
何か舞い降りた。八重桜の花びらだ。
鶯宿は、新緑が始まったばかり。とても綺麗な薄緑。
まだ、満開の八重桜。今年最後の花見になるのかな。
ちょっと走って、この贅沢。盛岡ならでは。
今日は長く住んでいると日常に追われ、見えなくなっているものを再発見した。
そう言えば、話は変わって、今「レスターの奇跡」が話題だ。
30万人の街のチームがプレミアリーグで優勝した。盛岡も30万人の街。
全国、世界に誇る物が山ほどあると思う。
まあ、再発見は足元を見直すあたりから、かなぁ~
しかし、思えば「鶯宿温泉」鶯の宿とは、何て素敵な名前だろう。
初めて耳にしたのはいつの頃だったかわからないが、子供心に良い名前だと
思ったものだ。