アレグロ・オルディナリオ~マーラー資料館とわたしの大切なこと-KC3Z0033.jpg
少し前に、ブルーノ・ヴァルターが1942年にニューヨーク・フィルハーモニックを指揮したマーラーの交響曲第1番(10月25日)と第2番(1月25日)のライヴがMusic&Artsから出された(CD1264)。そもそも戦時中のマーラーのライヴで残されているものはあまりないようなので、今回発見されたこの記録は極めて貴重だと思う。この録音が残っていたのはほとんど奇跡的では。しかも、驚くほどに鮮明な音。
今回出された第2番は、48年12月5日のニューヨーク・ライヴ(日本ワルター協会が1990年に会員頒布用にLP化したことがあるだけで、まだCD化されたことはない)と同じで英語による歌唱になっているのだが、48年の日本ワルター協会盤よりも歌詞がよく聴きとれる。楽章の間の音も(多分)そのまま収録されている。第2楽章の後に少し拍手が入る。ともかくいろいろな意味で大変貴重な記録だと思う。
ヴァルターとしては9種類目の第1番と5種類目の第2番にあたる。年代から言うと第1番は39年の記録に次ぐ二番目に古いもの。第2番は今まで知られてきた録音は戦後のものばかりなので、最も古い記録ということになる。当然のことかもしれないが、晩年のセッション録音とはかなり違っている。とは言っても、第2番で8種類の録音が聴けるクレンペラーほどの極端な違い――例えば50年のシドニー・ライヴ(全曲で約67分という猛烈な速さ、因みにこれも英語歌唱)と71年のNPOライヴ(約99分という気の遠くなるような遅い演奏)との間の違いはあまりにものすごい――があるわけではない。しかし、1957年(第4、5楽章)と1958年(第1~3楽章)に録音されたあの有名な米コロンビアへのニューヨーク・フィルハーモニックとのセッション録音にはない大きな身振りや激しさが、1948年のヴィーンでのライヴ、同年のニューヨークでのライヴ、1957年のニューヨークでのライヴ以上にある。若き日(といっても60台半ばだけれど)のヴァルターの覇気が今まで知られてきたどの録音よりも強く出ていると思う。
同じことは第1番によりはっきりと現れている。この42年のニューヨーク・フィルハーモニックとの演奏の、特に第4楽章は圧倒的である。