フェレンツ・フリッチャイにはマーラーの録音が一つだけあります。
モーリン・フォレスター(メゾ・ソプラノ)が歌った、ベルリン放送交響楽団との《リュッケルトの詩による5つの歌曲》です。
1959年9月16日に録音されたものでドイツ・グラモフォンから1960年にLP(LPE 17 199)で出されて、日本でも同年に出されていました(日本グラモフォン LG 1058)。
1999年にはCD化もされています。
ところが、その後、(たぶん)入手困難な状態が続いていました。
そのように貴重な録音が、昨年超廉価で出されたフリッチャイの10枚組みボックスに含まれていることを、ボックスを手にして知りました。
HMV
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ただ、オリジナルのLPでカップリングされていたブラームスの《アルト・ラプソディ》が収録されていないのはとても残念です。
と、ここまでは前置きです。
実はこの録音はフリッチャイという名指揮者の残した唯一のマーラーであるということだけではなく、ドイツ・グラモフォンというドイツを代表するレーベルにとってのマーラー録音の第1号にあたるという記念すべき、というか、記憶にとどめられるべきものなのです。
つまり、1959年までドイツ・グラモフォンはマーラーを一切録音したことがなかったのです(録音年について、ジョン・ハントのディスコグラフィでは1958年としていますがここではフュロップのディスコグラフィに従って’59年としておきます)。
またこのあともドイツ・グラモフォンは他のレーベルに比べて驚くほどマーラーに対しては冷淡でした。
現在からは信じられないような話かもしれませんが、ドイツ・グラモフォンがマーラーの交響曲を初めて録音したのは1967年2月28日から3月4日にかけてのことで、クーベリック指揮/バイエルン放送交響楽団による第9番でした。1963年に一応ヨッフムの指揮で《大地の歌》を録音してはいますが、番号つきの交響曲の録音は1967年ということになります。また、1962年5月に録音されたスウィトナー指揮/ドレスデン国立管弦楽団による第1番がドイツでも日本でもドイツ・グラモフォン・レーベルから出されていますが、これはドイツ・グラモフォンの録音ではなく、東独エテルナの録音で、それの西側での発売がグラモフォンであっただけです。