「ディスコグラフィ」というものが、演奏の歴史や録音の歴史、更にはある曲の受容の歴史の資料として、また、ある演奏家の資料としても重要な意義を持つものであることを考えるならば、そこに記載するに際しての基準は、十分に検討され明確なものにされている必要があるでしょう。
7/10 16:14

例えば、ブルーノ・ヴァルターのような人の交響曲第2番にも、セッション録音の他にLP時代から何度もリリースされているヴィーン・フィルとの演奏のほぼ半年後(48年12月5日)のニューヨーク・フィルとのライヴが残されてますが、これがなんと英語歌唱なのです。
7/10 16:15

ヴァルターがニューヨーク・フィルを指揮して演奏されたマーラーの第2番が、1948年の時点でも英語版で歌われていたということに関してどのように評価するべきかということにはさまざまな考え方がありましょう。しかし、ともかくこのような事実そのものはもっと知られるべきだと思います。
7/10 17:11

しかし、このヴァルター/ニューヨーク・フィルの48年のライヴは、おそらく日本のワルター協会が会員用にLP化したことがあるだけで、レコード会社からリリースされたことはないのではないかと思います。音は当然あまり良くないのですが、歌唱は意外に聴き取れますし、感動的な演奏です。
7/10 17:11

商用録音以外の例をもう少し挙げてみます。第10番のクック版の最初のセッション録音がオーマンディによる65年になされたものであることは有名なことですが、その翌年にマルティノンがシカゴ交響楽団で演奏していて、それは自主制作盤になっていることはそこそこ知られていることでしょう。
7/10 17:12

しかし、マルティノンとこのクック版とにはもっと深いつながりがあるのですがそちらはあまり知られていないのではないかと思います。マルティノンはこの曲をたいへんに大事に思っていたようで、ハーグ・レジデンティ管弦楽団でも名演を残していて(75年6月13日)これはLPになっています。
7/10 17:12

1976年に急逝したマルティノンの追悼盤としてハーグ・レジデンティ管弦楽団が、74年に演奏されたリストの『ファウスト交響曲』と併せて三枚のLPの形で自主制作したものです。レコード会社からリリースされたことはありません。
7/10 17:13

この、シカゴとハーグでのマルティノンによるクック版の録音の存在というものは、実に多くのことを我々に語りかけているように思います。まず当然第一に、マルティノンというあまりマーラー演奏史に登場しない人が非常に早い段階からクック版に積極的に関わっていたという事実です。
7/10 18:12

(このことは更に、いわゆる「マーラー指揮者」というレッテルのようなものが、レコード会社の商策にすぎないのではないかということを考えさせることにもつながっていくように思いますが。実は思いもよらない人がマーラーを積極的に演奏しています。)
7/10 18:12

このマルティノンによるクック版の演奏、どちらもかなりの快速です。特に第一と第五楽章が早い。そのために、全体での演奏時間も記録的な短さになっています。シカゴ盤は66分台、ハーグ盤はなんと65分台です。クック版の演奏史をたどっていくうえで極めて重要な記録なのではないかと思います。
7/10 22:14