今日はぜひとも皆様にご覧いただきたいテレビ番組と、その番組の監修・解説を担当していらっしゃる先生のことを書きたいと思います。


 その番組は

 

 名曲探偵アマデウス


 BShi 毎週土曜日19:00~19:45(再放送:火曜日8:00~8:45・土曜日13:00~13:45)

 BS2  毎週日曜日23:00~23:45


★追記★

 2009年4月より地上波(NHK総合)でも放送が開始されるそうです。

 毎週金曜日15:15~16:00 



 名曲の成り立ちを、筧利夫さん演ずる探偵が、黒川芽以さんを助手として名曲の魅力を解明するという番組です。

 全体の流れについては、人によって評価が分かれるかと思いますが、――つまり、特にこのような謎解きの形にするほどのことでもないのではないか、などという感想が当然出てくるであろうということなどですが――見逃せないのは、監修者でいらっしゃる野本由紀夫先生ご本人がピアノを弾きながらその日の核心につながることをお話になる部分です。

 この部分を見るだけでも、この番組は絶対に観る価値があります。


 野本由紀夫先生について、私の立場からご紹介させていただきましょう。


 野本由紀夫という学者は、リスト、特に、「総合的な音楽家としてのリスト」の研究者として、今日、日本での第一人者です。そして、日本での第一人者であるだけではなく、世界でも指折りの人です。

 リスト研究においては、「標題」というものの捉え方について、一般に広まってしまっている誤解を180度転換させるような仕事をいろいろとされています。

 特に世界中のリスト研究者を驚愕させた画期的な研究は、リストの交響詩の中で最も有名な『前奏曲』についてのものです。

 これは、従来、解説者の思い込みによって、ラマルティーヌの詩『前奏曲』に刺激されて、リストの中で楽想がわき上がり、曲が作られたとされてきました。そして、場合によってはご丁寧なことに、曲のどの部分が詩の何行目にあたる、などということまで「解説」されてきたのです(と、あまりに単純化してはいけないのですが)。

 野本先生は、これがまったくのでたらめであることを明らかにしてしまったのです。要するに、曲そのものが先に出来上がっていて、その後で、それにふさわしい「標題」となるような詩を探した結果、ラマルティーヌの『前奏曲』という詩に出会って、これを「標題」にした、ということを決定的に証明してしまったのでした。

 このことについての詳細は、『音楽芸術』第50巻7号(1992年7月号)p.83・84をご覧ください。


 また、野本先生がいろいろなところにお書きになった、リストの提唱した「標題」について今日まで蔓延している誤解を打ち破る画期的な文章に導かれて、私は、拙訳書 C・フローロス『マーラー 交響曲のすべて』の巻末につけた「マーラーの交響曲において『標題』とは何か」という論考を書くことができたのでした。


 野本先生の訳注および解説があることも含めて、現在日本語で読める最も優れたリスト関係文献


エヴェレット・ヘルム著:リスト (大作曲家)  左矢印amazon.co.jpへ


Ludwig Mの宝石箱-090131_1054~01.jpg

 野本先生のリスト解釈を出発点として、私が展開した「マーラーの交響曲において『標題』とは何か」を巻末に収めた拙訳書

マーラー 交響曲のすべて/コンスタンティン フローロス
¥9,240
Amazon.co.jp
 なお、「標題」および「標題音楽」については、ライブドアのブログ『前島良雄のMahleriana』 で詳しく展開していますので、どうぞそちらもご覧ください。