本日、12月8日はジャン・シベリウス(1865-1957)の誕生日です。 

 『「真面目な」シベリウス・ファンと「不真面目な」マーラー・ファン』という記事を書く予定でいたのですが、その気力がまだ湧くまでには元気を取り戻していないので、シベリウスと言えば真っ先に思い浮かべられるべき作家、福永武彦先生について以前にライブドア・ブログに書いた文章を引用することにします。


(引用はここから)


 新進の天才的ピアニストの婚約者が誘拐され、犯人から「ハンマークラヴィア・ソナタを完璧に演奏しろ」という要求がきた、という事件で始まる、永井するみの『大いなる聴衆 (創元推理文庫)』という小説はとてもよく書かれていて、クラシックに親しんでいる人に大きな楽しみを与えてくれる。

 また、全く違った方向にある小説だが、ベートーヴェンがチェルニーを助手にしてモーツァルトの死の謎を解く『モーツァルトは子守唄を歌わない』という森雅裕の愉快な傑作も20年以上にわたって広く読まれている。

 その他にもクラシック音楽をなんらかの形で題材とした小説ですぐれたものは多い。
 そこでは、ある特定の曲、作曲家、演奏家等が実に巧妙に使われていて(時に非現実的ではあるが)思わず舌を巻くことになる。

 とは言っても、今挙げた2作品も含めて、クラシックと関係のある小説の中で一定の評価を受け広く読まれているものは、圧倒的にいわゆる「エンターティンメント」に分類されるものが多く、「純文学」に属するものがほとんど知られていないのは残念なことである。

 日ごろからクラシック音楽に親しんでいる人たちに(というより、そういう人々にこそ)絶対に読んでほしいのが、福永武彦という20世紀後半の日本文学の中に孤高の存在として屹立していた作家の作品である。
 ひとつでも読めば、すべての作品を読みたくなるだろうと私は確信しているのだが、クラシックに親しんでいる人々がまず第一に読むべき作品を二つ挙げてみよう。

 まずは『告別』という中篇。
 これはタイトルからも察しがつくと思われるが、《大地の歌》の歌詞が全編に盛り込まれた小説で、マーラー・ファンには必読の作品である。

 次に、日本の戦後文学の金字塔の一つである『死の島』という、この作家の最大の長篇。
 これは、さまざまな形でシベリウスと関わりがあり、我が国のシベリウス受容史上でも重要な作品である。
 また、壮麗に展開していく作品世界は、マーラー・ファンをも必ずや魅了するはずである。

 そして、なによりも重要なことは、ここには、「小説」というものがどこまで「音楽的」になりうるか、いや、そもそも「小説」が「音楽的」であるとはどういうことか、ということについての感動的な答えがあることである。
 それは同時に、「エンターティンメント」と「純文学」という区分が無意味になったかのような昨今の風潮に対して、こういうものこそが「純文学」なのである、ということをも示している。

 ところが大変残念なことに、現在、新品の本としては『告別』も『死の島』も手に入れることができない。しかし、今どきの世の中は便利なもので、amazonマーケットプレイスをはじめとして、さまざまなネット古書店があるので、ぜひ手に入れていただきたい。
 なお、福永武彦の簡単に手に入るものとしては、『忘却の河』がある。この作品は直接音楽とは関係ないのだけれども、とびきりの名作なので、まっさきにこれを読むというのも良いかもしれない。

(引用ここまで)


シベリウスの入門としては次の2枚組みが一番のオススメです。
交響曲全集としては一番下に挙げた渡邉暁雄先生によるものをぜひお聴きください。
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加田伶太郎というのは、福永先生のミステリー作家としてのペンネームです。
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